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コラム「論より、おやつ。」

送別会に豆ディップ畑

2008年03月17日

 京都にも雨が1日中降った翌朝、庭にある手洗いに行った。ツタンカーメンのひつぎ大の畑に寝ぼけまなこを泳がせる。メガネなしでも分かった。あ、マメが見るからに背丈を伸ばしている。わーい。ジャージ姿のまま座り込む。花やサヤは見当たらないが、よくぞここまで。サボテンさえ枯らした真っ茶色の手の私なのに、命はぐくむ春の雨だわ。庭づくりの師匠・友人マリさんに報告しよう。

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雨降ってぐんと背が伸びた畑のソラマメ

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2種類の豆ディップ畑

 ソラマメとスナップエンドウを初冬にまいていた。2週間たっても芽が出なかった。水に浸したマメを再びまき直し、鳥が食べないようにもみ殻で覆う。寒さしのぎにワラの布団を敷き、雪よけに北側にササも立てていた。すべてマリさんの勧め通りにした。地味な作業が春に実った。収穫はまだだけれどもう満足している。

 ちょうど元同僚たちの送別会をする。うきうきして、お豆さん料理を作りたくなった。水で戻さなくてもいいレンズ豆を煮て、ニンジンとベーコンを混ぜる。賞味期限寸前で使い切りたい練りゴマで味つけした。<うすいえんどう>はゆでてアボガドで和えて、おろしたてのパルミジャーノチーズを混ぜた。2種類の豆ディップは貝殻マドレーヌ型に盛ってアスパラガスを立てる。にぎやかな春の畑みたい。私のツタンカーメン畑もこうなるといいな。

 大阪を離れるヤッシーに何が食べたいか聞いた。「フランス家庭料理なんか、いいっすねー」。じゃあ「どフランス」に。メーンはプレ・ロティ(鶏のロースト)にした。三条会商店街の鶏肉屋で1羽まるまる買った。フランスの料理本を引っ張り出しておさらいする。レモン皮とショウガ、ニンニクを鶏のお腹に詰める。オリーブ油は全体に「指で」なでつける、とあった。ためらったが「どフランス」式に。鍋に鎮座するトリをナデナデした。テカテカの1羽を新じゃがと一緒にオーブンに入れて焼いた。

 全員が集まったころ、こんがり焼けた鶏を出した。なんだかクリスマスみたいか。愛猫シュレーディンガーと旅立つ同期カクちゃんは「いっぱい食べちゃいます!」。ふふ、もうほろ酔いなのがかわいい。量子力学実験にちなんだ愛猫の名を、一生懸命説明してくれた。地元紙のヒロコさんは「家庭の味を超えた味!」と絶賛してくれた。14年で20数キロ太ったヤッシーは、くもったメガネをずらしながら骨にかぶりつく。「まさに思い描いていた通りの料理!」と大げさに言った。

 焼きたてマドレーヌも食べ終えて、ヤッシーとメガネを換えっこしたミシマ君が驚いた。ふいても積年のくもりがとれない。「ヤシロさん、これでパソコン打てるなんてすごい」。金沢に行く前にメガネを買え、と大合唱になった。あれ、師匠マッサンが消えた。長屋の外でタバコを吸っていた。断煙したはずなのに。「また始めちゃって。止めるように言ってくださいよ」。徳島に向かうイセが言う。「やめたら」と、とりあえず発声してみた。ウンウンうなずいていたようだけれど、聞かないんだろうなきっと…。そのまま木屋町に消えていった。

 9人分の後片付けはあっというまだった。宴会を開くといつも料理も酒も余るのに、今晩はどの皿も瓶もきれいに空っぽだったから。うれしい。新聞記者の食べっぷり飲みっぷり、さすが恐るべし。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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