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罪な桜あん

2008年3月24日

  • 筆者 多田千香子

写真桜あんを入れた「桜ガトー」写真できあがった桜あん、冷まし中

 バターやーい。夜な夜なパソコンにかじりつく。製菓材料通販サイトをサーフィンする。いつも買う発酵バターは生乳不足で450グラムあたり100円ほど値上がりした。それでも買えればラッキーだ。「1日の販売は100個のみ」「1回の注文につき1個限り」。やたら制限がある。見つけたらすぐ「買い物かご」に入れる。バターだけだと送料がかかる。おっつけ日持ちする砂糖や粉を買う。めざすは送料無料。数十分後に8000円とか1万円分を超える。よし。「レジに進む」をクリックしたとたん、バターが「在庫切れ」に替わっている。そんなぁ。サッカーW杯のチケット争奪戦を思い出す。

 桜あんも抱き合わせ買いした食材の一つだった。白あんに桜の葉の塩気、ほんのり。スプーンでそのまま食べた。500グラムが2日で消えた。1日4食あんこでもOKの身だが買えば高い。作れるんちゃう?

 京都・錦市場に行く。2軒目の雑穀屋で「手亡(てぼ)豆」(白いんげん豆)を見つけた。「相場はよう変わるし、こないな値段でまたいつ買えるかわからへんよ」。800グラム袋を1000円で買い、粒あんの要領で作り始めた。水に浸してから煮る。やわらかくなったらゆで汁を切る。同量の砂糖を加えて練って、桜の葉を刻んで混ぜる。さぁ一口。あれ、何か違う。白あんのツブツブに我が舌は異議を唱える。小豆は何がなんでも粒あん派だから、白でも好きだと思ったのに。こしあんは手間も倍かかる。粒でいいことにしようよ、私。いや、でもダメなものはダメだ…。

 1人かっとう劇を繰り広げ、もっと人生の重要な局面で見せるべき信念をあんこに貫く。こしあんにしよう。豆をゆでてつぶす。万能こし器に通して水にさらす。上澄みごとふきんでこす。すべて流れ出ないか不安になりながら、ギュッと絞る。栗きんとんみたいな「生あん」が布に残っていた。ホッ。

 生あんと砂糖を入れて煮詰める。ボコッ。月面クレーターみたいになると危ない。ピューッ。アチーッ、あんこ弾に腕を狙撃された。「300度までOK」のシリコン製手袋をはめるが練りづらい。素手でやる。腕がヒリヒリするが焦がすのが怖い。おしゃもじを動かし続ける。ぽってりしたら桜の葉と花の塩漬けをザクザク入れる。すぐにパクついた。あぁコレコレ。さーくらー、さーくらー、桜餅の味。

 いまやお宝・バターも使ってケーキを焼こう。卵と砂糖を泡立てて、同量の溶かしバターと粉を混ぜる。フランス菓子ガトー・ウイークエンドの作り方でこしらえた生地で桜あんを包む。名づけて桜ガトー。しっとりした季節限定の味を、広島のチナエさんは「クセになる」と喜んでくれた。残りのあんは冷凍庫の奥にしまう。見たら最後、タダまっしぐら。すぐになくなりそうだから。

 赤くなったヤケドは隠せない。ひじ下から点々と4つ、右腕に残った。アトリエにやってきた歯科医ユーコさんに見つかった。「腕どうしたんですか。虐待跡みたい」。確かに。ただしテキはあんこ…。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」が文藝春秋より発売されました。

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