現在位置:asahi.com>食と料理>コラム>論より、おやつ。> 記事

コラム「論より、おやつ。」

よもぎカントゥッチ

2008年04月14日

 同い年生まれのサチコさんはサラッと言った。「そうそう会社、辞めちゃって」。えっ。1月に会ったころは「仕事、ちょっと迷っててねー」。ランチの店選びの悩み程度にしか聞こえなかったから。料理の勉強に興味があるようだったし、ジャンプしたんだ。「それがね、就職先も決まっちゃって」。あれれ。東京の同業他社というが、あんまりうれしそうじゃない。父1人を残して上京するのに迷いがある。何よりコレって本当にやりたいことなんだろうか。「ああー。私って何ができるんだろうなぁ」。一休さんみたいに両手を頭のてっぺんに乗せて、困ったように笑った。

写真

嵯峨野のカフェの庭でマリさんとヨモギ摘み=京都市右京区で

写真

よもぎカントゥッチはゆであずきや落花生を入れても=京都市中京区で

 うんうん分かる。お互い30代というかアラウンド40というか。親が早世したせいか、人生の持ち時間に敏感なのも同じだ。「時間は有限といつも思う」とサチコさん。私のアトリエで焼きたてサブレをつまみながら2時間以上も話した。

 37歳、今の私の年齢で父は闘病中だった。そう思うとたまらない。病室から桜を見たのかな。運がよければ半年後、私は父の享年に並ぶのかな。38歳か。ぎゅっと胸がつまる。

 やっぱりアトリエに遊びに来てくれる34歳のキョーコさんは両親ともいない。「親が早く死ぬと、人生ウダウダ文句言ったり、やりたくないことをやっているヒマはないよって悟っちゃう」。好きなロングスカートを作りたいと、フリーランスの道を探っている。やりたいことに気付いちゃったら、やるしかないよねえ。励ました。

 京都・嵯峨野でカフェを営むジュンコさんが「庭のヨモギをいつでも取って」と声をかけてくれた。行きたいけれど、急ぎの用があるから無理かな。キョーコさんにえらそうに言ったのに、自分はやらない言い訳をしていた。やっぱり出かけよう。来年はないかもしれないし…。

 青々とした茂みに分け入った。あやしい者ではありません、ちゃんと許可をもらっています。いぶかしげに通る観光客に心の中で言い訳しながら紙袋を取り出す。若葉をひょいひょいと摘み取る。指先をかぐ。草餅、じゃなかった草の香りがする。たかがヨモギ摘みだけれど実行できたのがうれしい。

 ヨモギ、何に使おうかな。草餅だと日持ちしないので、イタリアの固焼きクッキー・カントゥッチ(ビスコッティ)にした。卵に砂糖、小麦粉にゆでて刻んだヨモギを大さじ1杯混ぜて2度焼いた。確かに緑色にはなったが、味は言われないと分からない。出し惜しみしちゃダメだ、人生もヨモギも。どっさり入れて作り直した。カリカリかじる。プーンと春の野の味がした。うん、いい感じ。ちょっとホッとした。

 サチコさんとキョーコさんに送る前に、やってきた近所の小1ユーちゃんに試食してもらった。「チカコさんのお菓子おいしいね。この緑色なぁに?」「川べりに生えている草あるでしょ」「ワカメ?」うーん、惜しい…。

よもぎカントゥッチ

材料(30枚)

  • 中力粉80グラム
  • 砂糖50グラム
  • ゆでて刻んだヨモギ大さじ3
  • 卵1個
  • 塩小さじ1
  • ベーキングパウダー小さじ1弱(4g)
  • 甘納豆かゆで小豆100グラム

作り方

  1. 卵に砂糖、ヨモギをすり混ぜる。
  2. 粉類をサックリ混ぜ、甘納豆も加える。
  3. 天板の上でカマボコ状にまとめ、170度のオーブンで20分焼く。
  4. いったん取り出して1センチほどに切って並べ、150度のオーブンで25〜30分焼く。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

このページのトップに戻る