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コラム「論より、おやつ。」

祇園の陶芸家に弟子入り

2008年04月28日

 陶芸家サチヨさんに1日弟子入りした。京都・祇園を歩く。観光客ばかりの花見小路を曲がって1本入る。急にひっそり長屋風の家が並んでいた。「陶芸教室 工房dara」。手書きの小さな看板がかかった1軒があった。あ、ここだ。外資系OLミキさんから「極貧の愚妹なんです」と紹介されていた。古い家を想像していたのに新しくて小ぎれい。ゴクヒンどころか立派だわ。私より4つ年下のサチヨさんは「いや本当にド貧民です」と笑った。

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1日体験教室で作ったお皿。カステラをのせた皿はサチヨさん作

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サチヨさんの作品

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小さく下がった陶芸教室の看板=いずれも京都市東山区大和大路通四条下ルの「工房dara」で

 器が好きで陶芸を志した。美大を出て清水焼作家に3年、弟子入りした。昼は修業先でタダ働き。200万円の陶芸窯が欲しくて朝はパン屋、夜はピザ屋でアルバイトした。初めて勤めた陶芸教室はつぶれ、富小路のビルの谷間に長屋を借りた。戦前の家は水回りのトラブルで住めなくなり、今度は祇園に引っ越した。いまも夜、器屋のバイトをかけもちする。家賃8万円、電気代2万円。材料費を差し引いたら全然、残らない。シンプルな色合いの食器を作るのは、姉ミキさんいわく「あの子、金色の絵の具なんて高くて使えないんですよ!」

 なのにフワフワ綿みたいな愛犬がいる。病床にあった教室の生徒から贈られたという。ブランドのバッグなんて興味がないしいらない。そう言うと「何とか先生を喜ばせたい」と、渡されたのがマルチーズだった。うわー、どうしよう。自分1人を養う甲斐性さえないのに。かなりあせった。今やかけがえのない存在だが…。

 土ひねりに来たのに手より口ばかり動かしている。おやつとコップを一度にのせられる皿が欲しい。生成り色にして四角いサブレの飾りを貼り付けることにした。ぶきっちょだが焼き物の里・岡山県備前市生まれ、窯元でアルバイトしたこともある。パン生地をこねるみたいに土を起こし、ソラマメ型の2枚を仕上げた。余った土でタルト型の小皿2枚や箸置きを作った。色付けと素焼き、本焼きはサチヨさんにお任せして3000円。ブサイクだけれど世界で一つの「おやつ皿」が5月中にはできる。うれしい。

 作業を終えて手製のカステラを食べてもらった。材料は卵と粉、水、砂糖と、米アメの替わりにメキシコ産シロップ「百年の蜜」を入れた。テキーラの原料で、荒野で100年生きる植物マゲイからとれる。備前にあるBIZEN中南米美術館が紹介している。米アメより断然、味が濃いのにクセがなくてベッコウアメみたい。やさしい味にしてくれたかな。

 きゃしゃで凛とした美人のサチヨさんは手製の皿にのせて「カステラ食べるの、久しぶり。しっとりしておいしい」と喜んでくれた。ぱくつきながら話した。好きな道で食べていくって毎日がドキドキだ。おかげで心配されたり同情されたり、挑戦しない理由の一例にされたり。それでも何もかも心底ありがたい。陶芸一筋のサチヨさんは「決めたころは若過ぎて、こんなに大変とは知らなかった」。分かるなぁ、本当に。2人で笑う。彼女に遅れること10年、若くも美しくもなく会社を飛び出した私も存じませんでした、アハハ…。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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