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絹織職人の脳みそ

2008年6月2日

  • 筆者 多田千香子

写真「絹織職人の脳みそ」という名前のリヨン名物チーズディップ写真祭りの後のお楽しみは揚げたパンの耳

 「ハーイ、チカチャーン!」。おかっぱ頭と抱き合う。英領バミューダに住むミノリさんと3カ月ぶりに再会した。サンフランシスコで次女と会い、日本に「ついでに寄った」そうだ。海外暮らしが長い彼女にかかると、太平洋も鴨川ぐらいに思える。

 彼女のために「リヨン料理の会」を催した。女性9人が集まった。パパッと作っておしゃべりしたい。前菜は「絹織職人の脳みそ」にした。絹織物の街らしい名のチーズ・ディップは、ニンニクやハーブを混ぜるだけ。ちょっとはおもてなしらしくしよう。リヨンの三ツ星シェフのパン屋の食パンを型抜きして焼いたのを添えた。「どこが脳みそ…」。8人の疑問には答えられなかった。トロリとしているからかな。

 お次は鶏レバーのガトー(お菓子)。ハンディプロセッサーでレバーと牛乳、パン粉を混ぜる。「仏滅の女」ことヨシコさんにお願いした。教会オルガン奏者の彼女とは結婚式のない仏滅にしか会えないから。マフィン型に流して焼いて型から出す。見た目は確かにババロアみたい。焼き立てにトマトソースをかける。ヨシコさんは「レバー好きやないけど、これはおいしい」。嵯峨野のマリさんは「トマトソースをかけたらいける」。あれ、話すのに夢中で塩を入れ忘れたか。

 メーンはヒツジ肉ソーセージ・メルゲーズとクスクスにした。北アフリカの味を京都の肉屋さんが手作りしていて驚いた。パリで出たジョギング大会でメルゲーズの屋台があったのを思い出す。フラフラになってゴールしたらスパイスの香りに迎えられた。お腹がグー。完走者の汗と香水の匂いも混じって、ますます倒れそうになったっけ。

 韓国に滞在した嵯峨野のマリさんが、焼いたソーセージをハサミで切り分けた。米ケンタッキーを旅したアケミさんが「ケンタッキーヤキ」という名のテリヤキソースをくれた。おそるおそるかける。なかなかお似合いの味になったかも。極細パスタ・クスクス作りは「新聞マリチャン」ことY紙マリさんが独り占めした。熱湯をかけて5分、指を突っ込んで丁寧にほぐす。「なんか気持ちいい〜」。おかげでホカホカのクスクスになった。

 ミノリさんに質問が飛ぶ。「バミューダの主な産業は?」「現地語ってないの?」ニューヨークから飛行機で2時間、物価が高い金融の島と知る。「何か楽しみが一つあれば世界中どこでも暮らせる」。バミューダではイセエビを食べること、それで十分という。四の五の言わず、その場を楽しむ達人だわ。

 じゃあチカチャーン、またね。ミノリさんは隣町に帰るように消えた。長女のいるマイアミに「ついでに寄って」からバミューダに戻るという。ふと思った。近くにいたって素通りの人もいる。「ついで仮面」をかぶりながらミノリさんは都合をつけて会いに来てくれた。うれしいなぁ。しみじみ宴の後片付けをした。

 大量に出た食パンの耳は揚げて砂糖をまぶす。久しぶりに子ども時代の大好物をつまむ。油に甘さがジュッとしみる。なつかしい。あーあ、雨の中、別れのハグをし忘れたなあ。

絹織職人の脳みそ レシピ

材料

  • フロマージュブラン150g
  • エシャロットか玉ネギ大さじ3
  • パセリかシブレット、生クリーム、オリーブ油、酢各大さじ2
  • ニンニク1片、塩コショウ

作り方

  • 1. エシャロット、パセリ、ニンニクはみじん切りにする。
  • 2. 材料すべてをよく混ぜる。パンに添えてどうぞ。
  • 3. フロマージュブランがない場合、ヨーグルト1パックをコーヒーフィルターに開けて1晩水切りし、生クリーム大さじ3〜4を混ぜる。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」が文藝春秋より発売されました。

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