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リヨンでキノコのデザートを習う

2008年7月21日

  • 筆者 多田千香子

写真シェフ・レイノー特製のハート型マカロン写真キノコのデザートの盛り付けに挑戦するノリコさん(左)。右端がシェフ・フレデリック写真モーリーユ茸たっぷりのデザート、クリのアイスクリームのせ=いずれもフランス・リヨン近郊メキシミューで写真写真入りで「ル・プログレ」に掲載された記事

 リヨン空港から車で30分、モンブラン峰をのぞむ丘にある民宿「ラ・デパンダンス」に着いた。午後10時でも明るい。ロバ3頭とウサギ4匹、それに肝っ玉かあさんベアトリスが迎えてくれた。「また会えるなんて。人生ってすばらしいわね、チカコ」。本当に。ほおを寄せてビズを交わす。初めて訪ねたのは今年1月だった。チョコレート店やパン工房の見学、レストランでの料理教室をボランティアで世話してくれた。次は仲間と来ると決め、道連れを募ったら女子7人旅になった。

 翌朝から大忙しだった。半年ぶりの面々を訪ね歩いた。中世の村ペルージュのパン職人ディディエの店はまた工事中だった。冬は改修に2カ月休み、今回はレンガ窯の手入れに2週間かかるらしい。有機栽培の粉を使った昔ながらのやり方もいいが、やっていけるんだろうか。余計な心配をする。「ビジネスの成功は求めていないから。好きな仕事がやれて幸せ」。ピスタチオやプラリネ入りの分厚いサブレを7人分、プレゼントしてくれた。

 柔道家のチョコレート職人シェフ・レイノーの工房はピンクのマカロンでいっぱいだった。「あなたたちのための特別バージョン」とハートに絞り出し、真っ赤なキイチゴをはさんでくれた。作りたてを立ったままほおばる。カシャッと崩れた甘い皮を、ほとんど砂糖なしのクリームがナイスキャッチする。とろけそうな食感に名古屋のサカエさんは「パリの有名菓子職人のよりおいしい」。製菓を学ぶ京都のノリコさんは3つもほおばってシェフを喜ばせた。

 午後からはオーベルジュ(宿泊施設付レストラン)「ラ・クール・デ・リス」を訪ねた。シェフのフレデリックは厨房でデザート教室を開いてくれた。「シンプルなものにしたから」。レシピのメモをのぞく。「モリーユ茸と洋ナシのファルシ、タヒチ産ヴァニラのクリーム」とあった。え、キノコのデザート? 海綿スポンジみたいな高級キノコを甘い菓子にするなんて。どこから聞きつけたか地元紙記者もやってきた。求められるまま写真を撮られる。なんだか大げさなことになってきたぞ…。

 薄いスポンジ生地作りから始めた。ヴァニラ生地の上にチョコレートで模様を描いた。絞り袋を渡されたマサコさんは「富礼出陸(フレデリック)」と漢字で書いた。「これぞ西洋と東洋の出会いです」。大げさに説明する。シェフは感心して手元を見つめていた。

 モリーユ茸は惜しみなく30個ほどもシロップで煮た。炒めた洋ナシも加える。カスタードクリームには上等な生クリームとタヒチ産ヴァニラを混ぜる。7人はシャンパンをいただきながらシェフの手さばきを眺める。なんてぜいたくなんだろう。「厨房で飲むっていうのがフランスらしくっていいですねぇ」。金沢のヨーコさんはおいしそうにグラスを空にした。

 仕上げは各自でやることになった。薄焼きスポンジは底と側面に敷く。クリームをはさんだらあとはご自由に。ナッツのキャラメルがけ、モリーユ茸に洋ナシ、ライスパフ、それにパチパチした食感が懐かしい砂糖を好きなだけどうぞ。私は欲張ってキノコを山盛りすくってクリームに沈めた。

 緑いっぱいのテラスでシャンパンとともに試食した。シェフ特製・クリのアイスクリームをどっさりのせてもらう。まず一口。クリームとアイスの濃さにうっとりした。でも次の瞬間、舌の上はお祭り騒ぎになった。カリカリナッツに砂糖がパチパチ、パフはフワフワ、キノコと洋ナシはしっとり、あぁ忙しい。食感が何重にも攻めてくる。シェフは我々の反応を見逃すまいと視線が鋭い。さすがコンクールで優勝歴のある料理人だ。斬新な組み合わせ、どうやって思いつくんだろう。「レシピ、それはスパイス遊びなんだよ」。かっこいい。さっそくパクろう…いや参考にしよう。

 ホテルの厨房で計量も粉ふるいもせず、仕込みはシェフ任せ。シャンパン付きで高級素材を惜しみなく使った「お姫様お菓子づくり」だった。夕食を予約しているとはいえ無料なのが信じられない。「また来てくれたらいいから」。せいぜい宣伝になればと記者の質問に丁寧に答えたつもりだがちゃんと載るかな。なにせ取材は最初の15分ほど。ボツかもしれないな…。

 いらぬ心配だった。ベアトリスから「美しい記事になっているわよ!」と連絡があった。記者・ニコラからも記事が届いた。で、でかい。ローヌ=アルプ地方の新聞「ル・プログレ」アン県版トップの扱いだった。見出しは「我々の味(ガストロノミー)を発見する日本女性たち」。「我々のもてなしと職人技に感激した彼女たちは来年、もっと大人数でオーサカからやってくるだろう」。確かにそう願うが彼に言ったっけ。おまけにもうちょっときれいに撮ってくれたらなぁ…。日出ずる国のお姫様気取りは写真の仏頂面を見て現実に戻ったのだった。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」が文藝春秋より発売されました。

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