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同窓会トルテ

2009年1月5日

  • 筆者 多田千香子

写真「86」と卒業年度を書いたチョコレート・トルテ写真同級生に渡したおやつ詰め合わせ 写真「コレコレ、チカゴです」。卒業写真を指さすエミゴ 写真当時15歳、いま38歳。写真を撮り合う女子たち 写真ヨコさんの作品を見るカワノ先生=岡山市で

 1986年(昭和61年)、私たちは15歳だった。田んぼ道にテカテカの紺スカートをひるがえし、白ヘルメットをかぶって町で一つだけの中学に通っていた。いまは亡き本田美奈子は「1986年のマリリン」を歌い、幼なじみエミゴはC―C―B、チカゴこと私は吉川晃司をカセットテープで聴いていた。男子は丸刈り、女子もショートカットかオカッパが決まりで、部活動は全員参加だった。

「昭和61年卒長船中学校同窓会のご案内」との往復はがきが実家から送られてきたのは昨秋だった。日付を見てすぐ行かない言い訳が見つかった。翌日の早朝便で渡欧する。もっとも旅行の予定がなくても欠席にマルをつけただろう。もとより同窓会に出るなんて私がするとは思えなかった。岡山を出て15年、エミゴ以外に付き合いはなかった。行っても浮きそう。返事もせずほったらかしにした。

 急に出る気になったのは、卓球部で一緒だったマサヨさんからメールをもらったからだった。彼女は野球部のマチャと結婚し、幹事を手伝っているという。タケオ君が昨冬、心筋梗塞で亡くなって集まったのがきっかけで、同じ柔道部のナルチャンと剣道部のツカサ君が同窓会を思い立ったと書いてあった。知らなかった、丈夫と書くタケオ君が亡くなっていたなんて。「せっかくなので、ぜひ出席を」。天国の同級生が会わせようとしてくれているみたい。大切に思おう。

 同級生や先生に配るおやつ作りも引き受けた。小さなチーズケーキにサブレ、卵白菓子クロッカン、キルシュを効かせたチョコレート・トルテを焼いた。うーん、何か足らないな。どこかに同窓会らしさを出したい。思いつきでトルテに卒業年度の「86」を砂糖衣で書いた。ちょっと子どもっぽくなってしまったかも。15歳だった私たちも38歳、せっかく大人味で攻めたのに。いまさら落書きのようなアイシングは消せない。エミゴにも手伝ってもらって50人分を岡山市内の会場に運んだ。

 ほとんどの人と20年ぶりの再会になった。なつかしいにもほどがある。真っ先にマサヨさんを見つけた。言葉が出ない。「うわぁ、変わらんな」。両手にお菓子入りの袋を提げたまま抱きついた。卓球部のイクさんは「でーれー、ぎょーさん来とるなぁ(すごくたくさん来ている)」と驚いていた。コテコテの岡山弁が泣けるなぁ。エミゴがエージ君に声をかけていた。「ちょっと、ヘーヒリじゃが!どしたん、変わらんなー」。とんでもない子ども時代のあだ名のまま呼ぶ。生徒会長だったテルクンは身長が伸びて貫禄がつき、母校の准教授になっていた。手先が器用だったヨコサンは父と同じ備前焼作家になり、若手の気鋭として個展も開いているという。同級生の活躍ってうれしい。昔から美人だったニャーはやせて、もっときれいになっていた。たのきんトリオのヨッチャンに似ていたタナバは相変わらず似ていた。変わらないのにも安心する。

 壁に張られた卒業アルバムの集合写真を見る。写っている同級生140人余りのうち、6人も事故や病気で亡くなっていた。そんなトシじゃないはずなのに…と言いたいけれど、言い切れないのかな、もう。集まった45人で黙とうをささげる。生きている組にいる偶然をかみしめた。

 岡山弁で3時間、しゃべり倒してお開きの時間になった。ヨコサンの作品が先生に記念品として贈られた。「開けてみせてくださーい」。酔いも手伝って叫んでみた。カワノ先生が包みから出してくれた。使い勝手のよさそうな、ぽってりとした素朴な湯のみだった。カフェオレを入れてもおいしそう。私の手製おやつパックは退場のとき渡してもらった。神戸に住むニャーはすぐ開けてくれた。「チョコレート、大好きやねん、おいしそうじゃ」。関西弁交じりでほめてくれた。うれしい。

 2次会へ繰り出す仲間を見送った。「『じゃあまた明日、学校でなー』って言いそうになるなぁ。でも違うんよなぁ、もう」とエミゴが言った。本当に。38歳の私たちは今夜、1986年行きのタイムマシンに確かに乗っていた。そろそろ時間旅行は終えて京都に帰り、本当の旅支度をしなくては。まだ夢をみているみたい。心ほかほかのまま帰省ラッシュで混雑する新幹線に乗った。お菓子10キロを手放したから帰りは楽勝だわ。あれ、でも。何だか軽すぎる…。かばんをまさぐる。しまった、手帳がないーっ。会場に電話する。「あ、ありますよ、黒い大きいのですね」。あーあ、大ポカ。うかれすぎたか。明日から旅行なのに大丈夫かな。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」が文藝春秋より発売されました。

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