2009年5月11日
バウム生地を混ぜるヒロミ会長ら
出来上がった生地を天板に流す
カードできれいにならす
7層に焼き上がったバウムクーヘン=いずれも京都市中京区
肩書が加わった。「日本バウムクーヘン学会」まかない係である。設立総会を開いたばかりだ。初代会長には立命大ヒロミさんを選んだ。ドイツ発祥でありながらグローバル化の道をたどる焼き菓子をとりまく状況を見すえ、我が国におけるバウム発展に寄与するのを狙いとする…。
なんだか大げさだが大マジメかも。某紙で4カ月前、バウムクーヘンランキングづくりにかかわったのがきっかけだった。25種類のバウムを1週間で食べてコメントした。ヒロミさんは偶然、週末版1面に載った私の名前を見つけた。びっくりしたらしい。メールが届いた。「私たち、無類のバウム好きなんです!」
同僚らと食べ比べて批評したり、分布地図をつくったり。バウム愛が高じて学会を名乗ることにした。研究だけでなく実践もしたい。当面の課題は自分たちでオリジナル・バウムを焼くことという。「ぜひ顧問として指導を」とのことだった。
「学会」と言うのが大学の人らしい。でも勝手に名乗っていいのかな。セト先生に尋ねる。お墨付きは日本学術会議が指定する機関だけだが、別にかまわないらしい。顧問なんて無理だけれど、まかない係ならできるかも。立命大の有志4人に交じり、加わることになった。
連休中に私のアトリエに集まった。投票にも激論にもならず、会長は本命・ヒロミさんに決まった。まずは「バウム憲章」をつくろう。ふんわりした食感がいいのか、しっかりしたかみごたえがいいのか。「しっかり系がいいな」「いや論争の余地あり」「批判論文を載せたりして」「これぞ学会」「本場ドイツで食べ歩き…いや検証してから決めましょう」。なんだかまとまりそうもない。「とにかく年輪をイメージした形が好き」というフミヨさんは「バランスです!」と断言した。
層はいくつ?「手作りでも6層は欲しい」。4層ぐらいだと「ちょっと頑張ったスポンジケーキ」みたいだから。なるほど。こちらは全会一致した。
さっそく試作に入る。生まれたてのバウム学会にはいきなりミッションがあった。ウエディングケーキの監修・制作である。私の大学の後輩ユカちゃんの結婚式が1週間後だった。2種類の配合を試すことにした。ひとつは有名シェフによるレシピ本の作り方で、もう一つは友人の菓子職人マリちゃんに教わった配合で。フミヨさんがこだわる輪っか型にするには専用のオーブンがない。課題として先送りにして、シート状で許してもらおう。卵15個、バター450g、砂糖600g、アーモンドパウダー300g…。
バターと黄身と砂糖をクリーム状によく練る。白身をふわふわに泡立てて加える。粉をさっくりと合わせながらフミヨさんが言う。「試作したことあるんですよ」。ホットケーキミックスを使い、卵焼きのように薄く流してくるくる巻いた。おいしかったけれど「何か違う。バウムとは呼べない」との結論になったらしい。
縦40センチ、横30センチの天板に生地を6分の1ずつ流し入れる。薄く広げて焼き、また生地をのばす。繰り返して6層に仕立てる計算だ。この日のためにエプロンを買ったセト先生がゴムベラを操る。フミヨさんがシリコン製カードでなめらかにのばす。少しムラになってしまった。「あぁ、左官ってすごいなー」。フミヨさんがじれったそうに言う。
オーブンをのぞく。あれ、プクッと1カ所ふくらんでいる。「あぁっ、針で刺したいっ」。4人とも身もだえする。ガマンガマン。開けるとしぼんでしまいそう。
焼いているのを待つ間、ヒロミ会長は次にのばす分を量る。ゴムベラ王子ことセト先生が生地を流す。バウム左官フミヨさんが生地をのばす。いつのまにか役目が決まっている。すばらしいチームワーク。とびきりおいしくできるに決まっている。
6層目にたどり着いた。ふくらみがよすぎたのか生地があふれそう。決壊寸前のダムみたい。慌ててオーブンペーパーを継ぎ足して法面を高くする。なんだかガテン系になっている。アカデミックとは縁遠い私がいるせいか。学会はどこへ行った…。
計算通りにいかず生地が余り結局、7層になった。そのせいか微妙に生焼けかも。またオーブンに入れて仕上げた。
さぁ、ケーキ入刀です。長さ30センチの波刃ナイフが光る。キツネ色のバウム、ちゃんと層になっているだろうか。ドキドキする。一同かたずをのんで見守った。
切れっぱしがパタンと倒れた。「おお!」見事な7層が現れた。「すごい」「きれい」「ちゃんとバウムだ」「こんなにきれいにできるとは」。手づかみでほおばる。ホカホカして、しっとりしていて夢のよう。初めてにしては上出来かも。
もう1種類の配合も試してみる。少しあっさりしていた。よし決めた。最初に焼いたレシピを改良してお祝いバウムを焼こう。晴れの日を1週間後に控えた岡山のユカちゃんに電話する。「とびっきりの、焼くからね!」

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪・京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」が文藝春秋より発売されました。
ご飯のお供や酒のつまみに、常備していると何かと助かるお漬物。スーパーで手軽に買えるものもいいけれど、たまには地方ならではの漬物やこだわりの逸品で、いつもの食卓にちょっと変化を出してみては?
初夏の晩酌には、さわやかな味の日本酒がオススメ。繊細な泡が生み出す口当たりがシャンパンを思わせるにごり酒や、淡麗な味わいの新潟の美酒、辛口党の食中酒にオススメの1本など、これからの時期に楽しみたい日本酒をセレクトした。