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チョイ役が語る「一人旅」

2009年10月12日

  • 筆者 多田千香子

写真スタジオで収録中。左が「団長」。隣はユカちゃんこと、河本ぼあらさん写真海外編ではインドの魅力について少し話す。ガンジス河のほとりで「ナマステー」写真国内編で紹介した長崎・五島の農家民宿の押し寿司写真京都の農家民宿で出された鶏のすき焼き

 一人旅ファンとしてテレビに出ませんか。お呼びがかかった。NHKの「BS熱中夜話」という番組だった。家にテレビがないので観たことがない。番組HPをクリックする。毎週金曜日、ゲストを囲んで30人ほどが語るらしい。テーマは「マイケル・ジャクソン」「お弁当」「アニメソング」「ガンダム」など、2〜3週ごとに変わるようだった。旅好きだがマニアというほどじゃない。場違いかも。でも出版したてのレシピ本のPRに少しでもなれば…。いじましくも引き受けた。

 まずアンケートに答える。「旅をするならば国内ででも出来ますが、なぜ、海外に、しかも一人で行ったのでしょうか?」。友達がいなかった…と書きかけてやめた。本能に近いことは一人でもするから、と書く。漫画偏愛主義の松尾さんに教わった。

 「海外で体験した自分の人生観を変えた出来事は」の問いには「パリの料理学校で習ったサブレ。12年勤めた会社を辞めるきっかけになった」と記す。ちょっとでも本にこじつけなくては。「何カ国行きましたか? 国名を全て書いて」とあった。ええと、いくつだろう。ちょうど30カ国あった。多いような少ないような。同じ場所に何度も行っているし、そんなものか。

 収録は東京・渋谷のNHK放送センターであった。午前11時、ノコノコ出かけた。迷路のような通路を抜け、窓のない体育館のような場所に案内された。ヒゲ姿でいかにもバックパッカー風の男性、浴衣姿の女性…。いかにも旅のツワモノっぽい。「あ、かくかくさん、久しぶり〜」。お互いハンドルネームで呼び合っている。ちょっと苦手かも。

 私は1人しか知らなかった。大学の後輩ユカちゃんで、アトリエの作業台を設計してくれた。建築士の彼女は「世界一周バックパッカー界のアイドル」だった。ベトナムの民族衣装アオザイを着ていた。さすがだな。話しかけようにも引っ張りだこだった。

 話し相手がいないまま、用意されたおせんべいをかじる。スタッフの説明が始まった。スケッチブックにマジックで「訪問国数」「旅をして変わったこと」などを書き込む。向かいに座った「かくかく」さんは「天職を見つけた」と3回以上、書き直していた。世界一周旅行専門の旅行会社の社長さんだった。

 へぇー。「世界一周に毎日1人、旅立っていますよ」。そんなにいるんだ。航空券は20万円台からで1年有効、途中で日本に戻ることもできる…。

 「近くに来たら立ち寄って」と言ってくれた人たちを頭の中の世界地図に落とす。アメリカ、カナダ、バミューダ、ニュージーランド、インド、ベトナム、ザンビア、アラブ首長国連邦、フランス、イギリス…。そうか、世界一周する手があったか。ひらめいてワクワクする。

 収録があるのを忘れそう。30人が2列になってスタジオに向かう。司会の女優・田丸麻紀さんの後方1メートルが私の席だった。なんて顔が小さいんだろう。後ろにいるのに我が厚顔のほうが大きく映りそう。89カ国を旅した隣の男性に言う。「ははは…」。否定されなかった。とほほ。

 まずは海外編を収録した。肩が凝った。ほとんど2時間、座っていただけなのに。肩をグルグル回しながらトイレへ向かう。赤いラメ入り服にサングラス、羽根つきの帽子とすれ違う。30人で一番、目立っている人だった。声をかけられた。「タダさんですか?本、読みました」。丁寧な物腰だった。ええー。うれしい。

 名刺をもらう。「世界のロックバンド☆一里塚華劇団 スーパーロックスター 団長」とあった。ブッ。吹き出した。「自分でスーパースターって言うって、恥ずかしくないですか」。失礼な質問に彼はニヤリ笑っただけだった。突き抜けぶりがすがすがしい。「団長」と話していたら次々、人がやってきた。世界一周した香川のユリさん、カリスマ・ブロガーの「はあちゅう」さんだった。1人ずつでも十分、番組が作れそう。もったいない。

 国内編もスタジオで2時間、借りてきた猫になった。旅のテーマはマニア度を増した。郵便局、温泉、国道、吊り橋、仏像、自分の名前に使われている漢字入りの駅めぐり…。みんなすごい。自分の凡人ぶりを思い知る。ほんの一言、農家民宿について話す。ゲストの有吉宏行さんに「それって楽しいですか」と突っ込まれた。あっさり撃沈してしまった。

 午後6時、チョイ役ごめんになった。放送は1編ずつ40分ほどという。私の言ったことなんてカットされるだろうな。まぁいっか。面白い人と出会えたし。豪州の農園主ゲンザンさんに報告する。あきれたような返事だった。「よーやるよ、ほんまに…」。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。著書としてレシピ&おはなし集「おやつ新報へ、ようこそ。」(エンターブレイン、税込1680円)、パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」(文藝春秋、税込1800円)が発売中です。

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