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コラム「スイーツの心得」

伝統菓子がポップになる!

2007年06月07日

 「銀座のダロワイヨで四角いシュークリームを見ましたよ」と聞き、駆けつけると、確かにキューブ形のシュークリームが並んでいた。「シュークリームもモダンデザイン?」と思いつつ、隣を見れば、ひときわ鮮やかなピンクのオペラが……。美しい。色といい、薄さといい、トップのシルバーの飾りといい、本当に美しい。最近、ケーキのデザインが変わりつつあるのを感じていたが、それを象徴するかのようなオペラだった。

写真「ダロワイヨ銀座店」のシューキュービック 630円。“ぬくもり”や“素朴さ”が持ち味のはずのシュークリームも、フォルムが変わると、シャープな印象に。
写真「ダロワイヨ銀座店」のオペラ・ロック 525円。オペラは、約50年前にパリのダロワイヨで誕生し、フランス菓子界に広く浸透したケーキだ。オリジナルはショコラとカフェのバランスが持ち味だが、それがフランボワーズ風味に進化した最新形がこちら。
写真「フォション」のエクレア3種。手前から、マッチャ、フレーズアクアティック、マンゴー、いずれも420円。パリ本店のシェフ・パティシエ、クリストフ・アダンが次々と新作を発表、常時6、7種がラインナップされている。
写真「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」のクロワッサン ショコラ フランボワーズ315円。ショッキングな色合いにして、味もヴィヴィッド。ショコラの苦み、フランボワーズの酸味、生地のバター風味が絶妙です。

 ずいぶん日常的になったとはいえ、ケーキはハレの食べ物だから、元々が装飾的だ。クリームで飾り、フルーツで飾り、チョコレートで飾る。常に飾りが付いてまわる。でも、どこかに“自然”を感じるのは、どこまでいっても食べ物だからか。フレッシュなフルーツ、こんもり絞ったクリーム、表面の焦げ色、生地のボコボコした膨らみ、いずれにしても、おいしさを求めていった結果の姿形だったり、装飾だったりする。

 それが、最近、もっと「デザインする意思」を明確に打ち出したケーキが出始めた。「おいしそう」感とは無関係な、“装飾”ではなく“デザイン”された(ある意味“人工的”?)ケーキが登場している。パリの「フォション」のエクレアが端的な例だ。ピンクや水色のしま模様の上がけなんて、これが食べ物? と思ってしまうけれど、カラフルエクレア、日本でもとみに増えている。モード化するスイーツのトップを走っているのがエクレアかもしれない。

 ダロワイヨのピンクのオペラには、食べ物とは異質の気配があって、ちょっとゾクゾク、ドキドキさせられる。「携帯電話みたいですね」と言った人がいるが、そう、そんな感じ。“モノ”のデザインとしての美しさなのだ。

 お味のほうは、と言えば、これがおいしい。表面はフランボワーズ風味のチョコ、中は何層ものフランボワーズの生地でガナッシュやカラメルクリームをサンド。れっきとしたオペラですね、フランボワーズ風味の。見かけ倒しじゃないところがエライ。

 先月、塩スイーツで取り上げた「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」には、真っ赤なクロワッサンがある。初めて見た時は、ギョッとしたというか、ハッとしたというか。フランボワーズのコンフィチュールとショコラを巻き込み、アーモンドクリームをかけて焼いたクロワッサンで、特に奇をてらったところがあるわけではないが、フランボワーズのフリーズドライパウダーを表面にふった点で、一気にポップになって、インパクトを増した。食べると、「なぜ、今までこういったものがなかったんだろう」と思えてくるから不思議だ。

 食べ物の世界は保守的である。味覚という器官自体がプリミティブだし。苦みや酸味を「生命への危険信号」として察知するのが味覚だとしたら、保守でなければならないとも言える。だから、そうそう革新は起こらない。アバンギャルドなんてのもむずかしい。伝統菓子が見かけだけでもポップになっていくのは、進化のひとつとして歓迎すべきことなのかもしれない。

 ところで、エクレアが過激になっていくきっかけを作った張本人は、パリの「サダハル・アオキ」ではないかとひそかに思っている。オープン当時、真緑色の抹茶のエクレアがパリに与えた衝撃は大きかった。革新は案外不意打ちから生まれたりするものだ。

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メモ

ダロワイヨ銀座店

東京都中央区銀座2-6-16

Phone 03-3567-1930

10:00〜22:00(日・祝〜21:00)

無休

フォション 日本橋高島屋店

東京都中央区日本橋2-4-1

恵比寿ガーデンプレイス内 シャトーレストラン ジョエル・ロブションB1

Phone 03-3211-4111(代)

10:00〜20:00

不定休

ラ ブティック ジョエル・ロブション

東京都目黒区三田1-13-1恵比寿ガーデンプレイス内 シャトーレストラン ジョエル・ロブションB1

伊勢丹新宿店本館地下1階

Phone 03-5424-1345

9:30〜20:00

不定休

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プロフィール

君島 佐和子(Kimijima Sawako)
1962年生まれ。『料理通信』(毎月6日全国書店で発売)編集長。ショコラ好きでボンボン・ショコラに目がない。パッケージ・コレクターでもあり、ジャン=ポール・エヴァンやラ・メゾン・デュ・ショコラの箱は大切に保存している。www.r-tsushin.com

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