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コラム「スイーツの心得」

ベジ・スイーツを甘く見るな!

2007年07月06日

 冬瓜(とうがん)のお菓子をごちそうになった。京都の料亭「和久傳」の今夏の新作である。名は「冰瓜(ひょうか)」。ざっくりと切った冬瓜を梅酒で煮て、ジュレと合わせてある。ごくほのかな甘みのつるりんとした物体が喉元(のどもと)を落ちていく快感……。その時、ふと思った、「お菓子とは甘くなければならないものなのか? 」

写真「和久傳」の「冰瓜(ひょうか)」840円。冬瓜を梅酒で煮て、ジュレと合わせた。すりおろした蓮根が歯触りのアクセントに。表面はほうれん草で緑色に彩った。料亭ならでは、見えない部分に手間のかかった仕事。透明感のあるすがすがしい味わい。
写真「ポタジエ」のカプレーゼ(手前)420円と、ローズヒップトマトゼリー 420円。トマトとモッツァレッラチーズを使ったイタリア料理の定番カプレーゼにインスピレーションを得たデザートは、レストランの前菜のよう。ローズヒップトマトゼリーは品の良いあっさり味。
写真「梅芯庵」の「トマトとセロリのゼリー寄せ」441円。口に入れると、真っ先に感じるのはセロリの青々とした香りとほろ苦さだが、それが実に爽快! 日本料理と和菓子が融合したデザート。職人同士の技の結集がスイーツの垣根を越えさせる。
写真「菓匠 清閑院」の朝摘みトマト242円。トマト餡(あん)の葛(くず)ゼリー。酸味の利いた餡がトマトらしさを感じさせる。

 最近、「べジ・スイーツ」という言葉を聞くようになった。野菜のデザート、ベジタブル・スイーツの略語である。中目黒の「ポタジエ」というケーキ屋さんが代表格として紹介され、人気を集めている。食べてみると、甘さ控えめ、軽くて、喉通りよく、後を引く。「マンゴーキャロット」や「カプレーゼ」など、デザートというより前菜のような印象の品も多い。レストランでは「トマトのソルベ」や「赤ピーマンのプリン」といった野菜のデザートにしばしばお目にかかってきたけれど、お菓子屋さんでは市民権を得ていると言い難い。それだけに、注目度も高い。

 「ポタジエ」のケーキを食べてほどなくの頃である、和久傳の「冰瓜」と出会ったのは。ガラスの器に入った冬瓜とジュレには、すりおろした蓮根(レンコン)がしのばせてあって、つるりんの中にシャリシャリが感じられる。和久傳の女将(おかみ)さんは、「冬瓜は味がないから」と言う。その一言が意味するところは大きい。味がないから、甘く濃くすることもできただろう。けれど、そうはしなかった。有るか無きかの甘みだ。お菓子だからと言ってことさら甘くしていないことが、冬瓜の個性を保ち、菓子としての品を醸し出している、と私は感じた。

 お菓子は甘くなければならないものだろうか? 甘くあるべき物はしっかり甘いほうがいい、とは常々思う。けれど、「冰瓜」に出会って、「お菓子=甘い」に縛られないほうがいいのかもしれないと気付かされた。野菜のお菓子と聞いて、多くの人は「へぇ」と思うものだ。「野菜をわざわざお菓子に……」と。そして、甘く味付けされた野菜のお菓子を食べて、違和感を覚える人も少なくないだろう。それって、もしかしたら、野菜がお菓子になっていることへの抵抗感じゃなくて、野菜が甘いことへの違和感なのかもしれない。

 「お菓子は甘くなければならないのか?」という命題に、私は社会における女性のジェンダーと同様のものを感じる。

 長い間、「甘くてかわいい」のがお菓子の魅力だったのは間違いない。お菓子の作り手も食べ手も「甘くてかわいい」を追求してきたと言える。「冰瓜」は「甘くてかわいい」から一歩飛び出した。お菓子らしくなければならない、甘くなければならないとの考えから解き放たれることで、素材の個性が発揮されることもあるのだ。女性が「女性らしくあらねばならない」との考え方から解放されることで自由になり、社会での地位を獲得していったのと、どこか似ているような……。お菓子が「甘くてかわいい」から脱皮する時が、そろそろやって来ているのかもしれない。

 「材料は野菜で、しかも甘くないとしたら、それってお菓子?」と聞かれそうである。確かに。事実、ベジ・スイーツを食べると時折、「デザートというより前菜のよう」と感じてしまうのである。以前、山形の「ふき豆」をおみやげにいただいて、「お惣菜(そうざい)」とばかり思い、夕飯の食卓にのせたことがある。後から「お菓子」と知ってびっくり。考えてみれば、ふき豆は立派なベジ・スイーツ、日本伝統のベジ・スイーツだ。

 「じゃあ、お菓子って何?」。そんな問いまで登場してきてしまいそうである。ベジ・スイーツは軽くて、喉通りが良くて、夏にぴったり……なんて気安く考えていたけれど、実はお菓子の本質を突くほど革新的なものなのかもしれない。甘く見ちゃいけませんね。

メモ

紫野和久傳 丸の内店

東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル1F

Phone.03-3240-7020

10:30〜19:00

無休

ポタジエ

東京都目黒区上目黒2-44-9

Phone.03-6279-7753

10:00〜20:00

無休

麻布十番 梅芯庵

東京都港区麻布十番1-9-2 ユニマット麻布十番ビル1-2階

Phone.03-3568-7761

11:00〜22:30

無休

菓匠 清閑院 京都本店

京都市左京区南禅寺草川町41番地12

Phone.075-762-6200

10:00〜18:00

無休

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プロフィール

君島 佐和子(Kimijima Sawako)
1962年生まれ。『料理通信』(毎月6日全国書店で発売)編集長。ショコラ好きでボンボン・ショコラに目がない。パッケージ・コレクターでもあり、ジャン=ポール・エヴァンやラ・メゾン・デュ・ショコラの箱は大切に保存している。www.r-tsushin.com

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