現在位置:asahi.com>食と料理>コラム>スイーツの心得> 記事 “黒スイーツ”の波、到来か?2007年10月23日 大阪出張の帰り、駅のみやげ物売り場で異彩を放つ一角に目が釘付けになった。軽く明るく鮮やかなみやげ物集団の中で、黒く重苦しい塊があるのだ。違和感という名の磁力に引かれて近寄って見ると、「黒おたべ」という商品だった。「へぇぇ」と購入して新幹線へ。と、東京駅に着いて改札を出ると今度は「黒ばな奈(正式名称は「東京ばな奈の黒ベエ)」があるではないか。もしや、みやげ菓子界は黒ブーム? 調べてみたところ、「黒おたべ」も「黒ばな奈」も一昨年に発売されているという。今に始まった話ではないらしい。「黒バームクーヘン」「黒レーズンサンド」「黒餅」「黒どら(やき)」等々、ラインナップも続々。失礼しました、みやげ菓子の黒い潮流にすっかり乗り遅れておりました。
みやげ菓子の黒い集団に出会う直前、実は、朝日新聞で「黒の奔流 『喪の色』から『私の色』へ」と題された記事を読んだばかりだった。調理器具やトイレットペーパーといった日用品から、七五三、ウェディングドレスなどの晴れ着の領域にまで、黒が台頭しているというのである。黒はスタイリッシュで高級で都会的、とのイメージを持たれているらしい。 みやげ物売り場は、目立とう精神が凌ぎを削る場所である。以前、デザイン評論家の柏木博さんにパッケージ・デザインについてインタビューした際、「大衆消費材は、棚にずらりと並ぶ商品群からいかに手に取らせるかに躍起になる中で、極彩色の派手な包装になっていく」と語っていた。加えて、みやげ菓子は、子供からお年寄りまでと幅広い層を対象にしなければならないから、デザインテイストの絞り込みがむずかしい。結果、おみやげコーナーには色と柄がはんらんすることになる。そんな中で、黒くて渋い、みやげ物らしからぬパッケージの「黒おたべ」は浮いた存在ゆえに目立っていた。スタイリッシュを目指しての黒だったにせよ、逆ベクトルで目立つための黒だったにせよ、効果的だったことは間違いない。 じゃ、黒がおいしそうか、と言われると、正直なところ、私には疑問である。 私の勝手な見方として、「茶色=おいしい色」という法則がある。おそらく焼き色からくるのだと思うが、茶色には、「こんがり」とか「香ばしい」とか、おいしさのイメージがある。「温かみ」「コク」「深み」「熟成」も感じさせる。チョコレート、コーヒー、紅茶、ウイスキー、ブランデー、葉巻……趣味性の高い嗜好品は茶系が多く、そのせいか、フランスのパティスリーやチョコレート専門店が包装紙やリボンに茶色を採用するケースは少なくない。黒を使うケースがないわけでないと思うが、おいしさを超えた高級感をイメージさせたい時に使われている気がしてならない。たとえば、トリュフとか……。 そういえば、「ピエール・エルメ」の今年のクリスマスケーキの一つは、黒トリュフのビュッシュである。トリュフというむずかしい素材(なにせ香りがむんむんですから)を品よくお菓子に仕立ててあって、さすがはエルメ。トリュフをスイーツにする発想(これまでにも何例かある)はあまり好きではなかったのだが、これはちょっと別格だ。ただし、味がいい分、お値段もいい。長さ13cmの薪形で31500円(予価)! ケーキが別次元に入ってきた感じですね。いつまでもスイーツとして語っていてはいけない、ガストロノミーとして語らなければ、と言われているような。 まずは、10個入り630円の「黒おたべ」で、“黒スイーツ”を体験してみてください。
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