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コラム「ワインの歳時記」

ワイン通をうならせる究極の“ワイングラス”

2007年05月22日

 オーストリーの続編は、“ワイングラス”にまつわるお話です。同国には世界的な2大グラスメーカー、ガラス職人の家に生まれたヨーゼフ・ロブマイヤーが興した『ロブマイヤー社』と、ボヘミアのガラス商人ヨハン・クリストフ・リーデルを祖とする『リーデル社』があります。

写真ウィーンのロブマイヤー本店入口
写真1912年、ホフマンがロブマイヤーのためにデザインした逸品『ホフマン・ブラック』
写真ロブマイヤーのアンバサダーシリーズ・シャンパンフルート
写真舌の味覚図 (c)リーデル・ジャパン
写真グリューナー・ヴェルトリナーとグリューナー用グラス (c)Terutaka HOASHI

●ハプスブルク家の紋章「双頭の鷲」を刻むことを許されたロブマイヤー

 ウィーンのケルントナー通りの一角にあるロブマイヤー本店の3階には、グラスミュージアムがあり、感性を大いに刺激される素晴らしい名品がそろっています。1823年創業時から近代までの作品類で、ここでは中欧に650年間君臨したハプスブルク家(注)から同家の紋章「双頭の鷲」を刻むことを許され、また、ヨーロッパの王侯貴族たちをとりこにしてきた同社の、重厚かつ華やかな歴史を感じることができます。

●カリクリスタルと鉛クリスタル

 以前、機関誌のグラス特集の時に、ガラス史に詳しい黒川高明氏にご執筆いただきました。その折、氏から「白ワイン用、赤ワイン用、スパークリングワイン用など多様な形状をしたグラスが使われていますが、一般品として多く作られているのは“ソーダ石灰ガラス”であり、高級品として使われているのは“カリ石灰ガラス(ボヘミアンカリクリスタル)”と“鉛クリスタル”です」と教えていただきました。つまり、ワイン愛好家が愛用するグラスは、手作りの“カリクリスタル”と、高品質の“鉛クリスタル”ということであり、ロブマイヤー社は前者、リーデル社やフランスのバカラ社は後者のタイプ、ということになります。

●優雅さが漂うロブマイヤーの手作りグラス

 カリクリスタルは屈折率が高く、輝きがあり、着色性や耐熱性に優れたガラスです。硬度が強いので、エングレーヴィング(ガラス表面に文様を彫刻する技法)にも適しています。そして何より、うれしいのは、口元部分に傷が入っても、その箇所を修復できること! グラスの背は少し低くなりますが、高価なグラスだけに修理が可能ということはまさに朗報。ただし、グラスの台座とボウルをつなぐステムが折れてしまった場合、これを復活させることは難しいようです。

 ロブマイヤーの人気のバレリーナシリーズは、イギリスのマーゴ・フォンテーンをイメージして作られたアイテムで、オーストリーでは「ティップ・トゥ(“つま先”の意味)」と呼ばれているとか。上品なシェイプと細長いステムのグラスを眺めているだけで、彼女の優雅な姿を連想することができます。

●機能性と合理性を追求したリーデル

 1756年創業のリーデル社は昨年250周年を迎えました。現当主ゲオルグ・リーデル氏は、同じワインでもグラスの大きさや形状で味わいが変わることに気づき、機能的な脚付きワイングラスを開発した9代目クラウス・ヨーゼフ・リーデルのご息子です。10代目の彼は父親からのコンセプトをより明確に打ち出した才能あふれる人物。同社のワイングラスは、ワインの「色」「香り」「味わい」のすべてをバランスよく引き出すように作られており、完成するまでの過程で、世界中のワインメーカーやワインのプロたちとワークショップやテイスティングを繰り返しながら製品化しています。

 リーデルグラスの素材は鉛クリスタルです。黒川氏は、「カリクリスタルより熔融温度が100度ほど低く、作りやすいガラスです。屈折率も非常に高く、輝きがあり、軟らかいので、カット加工しやすく、一般的にクリスタルといえば鉛クリスタルを指すことが多いです」と話していました。

●舌の味覚構造を考えてデザインされたグラス

 今回の連載のために、リーデル・ジャパンが本国から取り寄せてくださった『舌の味覚図』には、同社のグラス開発に欠かせない味覚領域が示されています。舌先は「甘味」、両サイドは「酸味と塩味」、口中の奥は「苦味・渋味」となっています。(この味覚図はリーデル社のオリジナル)。

 シャンパングラスを例に説明しますと、シャンパンは酸味がポイントなので、口径の広いグラスで飲むと、一度にど〜っと液体が口に入ってきてしまい、舌の両サイドの「酸味」部分が真っ先に刺激を受けます。結果、「すっぱい!」という印象になり、シャンパン本来の良さを感じないまま、“完了”ということに……。

 シャンパングラスが細い形をしていることで、液体は鋭角的に流れ、舌先の甘味部分 → 舌の中央部分 → 両サイドの酸味・塩味部分、という順に口中に広がります。それゆえ、最初から酸を意識することなく、併せて、繊細な気泡や気泡のリズム、複雑な香りも楽しめるという訳です。

 100回の講釈を聞くより、それぞれのぶどう品種に合ったグラスを選んで、先ずはお試しあれ。百聞は一見ならぬ、まさに、“百聞は一飲に如かず”になるはずです。

(注)中欧を中心とする広大な地域に君臨した家系。ヨーロッパで最も由緒ある家柄のひとつで、1438〜1806年の神聖ローマ帝国はすべてこの家門から輩出。皇帝フランツ二世は1804年からオーストリア皇帝としてフランツ一世を名乗る。また、婚姻政略の結果、1516〜1700年スペイン王位を占める。第一次大戦敗北のため、1918年に崩壊。(出典:広辞苑)

〈お薦めグラス〉

■若い世代に

  • リーデル・オーシリーズ 

■マイグラスとして

  • リーデル・ヴィノムシリーズ 

■優雅な気分の時は

  • リーデル・ソムリエシリーズ 

■贈答用・特別の日に

  • ロブマイヤー・バレリーナシリーズ 

プロフィール

青木 冨美子(あおき・ふみこ)
慶応義塾大学卒業。(社)日本ソムリエ協会機関誌編集長http://www.sommelier.jp。NHK、大手洋酒メーカーを経て、現在、フリーランス・ワインジャーナリスト。1990年(社)日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー資格取得。著書に『おいしい映画でワイン・レッスン(講談社刊)』協力執筆『ワインの事典(柴田書店)』監修『今日にぴったりのワイン(ナツメ社)』など。女性誌への執筆、各種企業向けワイン講師のほか、現在、昭和女子大学オープンカレッジの講師として活躍中。個人のBlogは『青木冨美子の公式Blog』

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