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コラム「ワインの歳時記」

キャサリン・ゼタ・ジョーンズの『幸せのレシピ』に登場するチャーミングな赤ワイン

2007年09月25日

 ワーナー・ブラザース映画宣伝部から興味ひかれるタイトルの試写会案内が届きました。題名を見た瞬間、「ワインが出てくるか、どうか」を反射的に考えてしまうクセは、拙著『おいしい映画でワイン・レッスン』(講談社)と、そのベースになった『エフ』(主婦の友社)での連載、“ワインが光るワンシーン”当時からず〜っと続いています(笑)。

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アデレード近郊で見た南氷洋に沈む夕日

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映画『幸せのレシピ』のテイスティングシーン(C)2007 Village Roadshow Films(BVI)Limited

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映画制作のパートナー、ヒックス夫人が手配してくださった「ドルチェット2002」、「同2004」、「シラーズ&タナ2004」、ユニークなロゴにも注目です! Special thanks to Ms.Kerry Heysen-Hicks

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果実味豊かでまろやかな味わいのドルチェットには、ワインで軽く煮込んだ肉料理や、洋梨、マンゴー、桃、ラズベリーなどの果物、ゴルゴンゾーラなどがピッタリ

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荒井基之ソムリエは「ソーテルヌのぶどうをチョコレートでコーティングしたひと粒チョコ」とドルチェット2002の組み合わせを絶賛!

●舞台はマンハッタンにある高級レストラン

 映画のタイトルは『幸せのレシピ』、今月29日(土)から東京・丸の内ピカデリー1ほかでロードショー公開されます。映画とワインのデータをつづった古いファイルを見直していた時、『ミマン』(文化出版局)に寄稿したドイツ映画『マーサの幸せレシピ』のエッセーを見つけました。2002年11月に日本で公開された映画にはキアンティ・クラッシコが出てきましたが、『幸せのレシピ』はドイツ映画のリメーク版、ましてやハリウッド映画ということなので、いやが上にもワイン登場への期待は膨らみます。

●映画の中でキラリと光ったワイン

 レストラン『22ブリーカー』のオーナー、ポーラ(パトリシア・クラークソン)がボルドー型グラスに注がれた赤ワインを数人のスタッフとテイスティングしているシーンが出てきます。

「2002年のドルチェットよ、産地はどこだと思う?」という彼女の問いかけに、スタッフのひとりが素早く「ピエモンテ!」と答えます。でも産地はイタリアのピエモンテではなく、「南オーストラリアのアデレード・ヒルズ」でした。

 ドルチェット種はピエモンテ原産のぶどうなので、スタッフの回答は理にかなっています。イタリア語のドルチェ(“甘い”の意味)に由来するドルチェット種は、酸味が控えめなので口中では甘く感じられることから、その名がつきました。果実味豊かでまろやか、一般的には若飲みタイプのワインといえます。

 2つ目のワインが登場するのは、片付けが終わりスタッフが帰ってしまったレストランの厨房。仕事一筋の主人公、ケイト(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)の生き方に大きな影響を与えることになるニック(アーロン・エッカート)とワインを飲みながら語り合う場面です。今までニックに反発していたケイトが心を溶き始める大事なシーンに使われていますが、スクリーンから見えるのはボルドー型のグラス、ボルドー瓶と裏貼のシールだけ。ワインの銘柄の判読は難しそうです。

●オーストラリアのワイン評論家から高評価を受けている赤ワイン

 帰宅後、プログラムを読んでいて、スコット・ヒックス監督のプロフィルにある一文が気になりました。「妻であり、映画制作パートナーでもあるケリー・ヘイセンと南オーストラリアのアデレードで暮らし、ヤッカ・パドック・ヴィンヤーズ(Yacca Paddock Vineyards)というぶどう園を所有している」と書いてあるではありませんか。

 すぐにオーストラリアの著名なワイン評論家ジェームズ・ハリデーの『オーストラリアン・ワイン・コンパニオン2007』を出して調べました。ヤッカ・パドック・ヴィンヤーズ、ありました! それもうれしいことに、そこには『アデレード・ヒルズ・ドルチェット2002』というワインも載っていて、ハリデー氏は四つ星評価(最高五つ星)をしています。

●『ドルチェット2002』にまつわるすてきな流れ

 思い切ってワイナリーに連絡をすることにしました。チーフワインメーカーであるベン・リグズ氏に「ドルチェット2002の購入は可能かどうか。同ワインは『幸せのレシピ』に出てきたものに違いないと私は確信している」旨のメールを送信しました。

 1日目、返信はありません。2日目もなし。そして3日目の夕方、映画制作パートナーであるヒックス夫人からメールが届きました! 「ベンは海外に出ていて不在です。明日ワインを送ります。あなたに送る『ドルチェット2002』と、キッチンでケイトとニックが飲んでいたワイン『アデレード・ヒルズ・シラーズ&タナ』は私がオーガナイズしたものです」と書いてありました。Nice! この返信は最高でした! 映画に登場していたのはおふたりのワイナリーの自慢のワインだったのです。

●ヤッカ・パドック・ヴィンヤーズの年間生産量はわずか500ケース

 20日、アデレード・ヒルズから待望のワインが届きました!『ドルチェット2002』、『同2004』、そしてキッチンのシーンに出てきた『シラーズ&タナ2004』、ギフト扱いでした! ヒックス監督らしさが出ていたのは“ロゴ”。カンガルーがカメラをのぞいている絵柄で、これはとてもユニーク。シンプルでありながら、なぜか気になるボトルデザインになっています。

 2000年に設立したヤッカ・パドック・ヴィンヤーズはスコット&ケリー・へッセン・ヒックス夫妻が所有するワイナリーでアデレード・ヒルズの標高350メートルの場所に位置しています。年間生産量はわずか500ケース(1ケース12本入り)。自然に恵まれた環境下にあり、白ぶどうはシャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、アルネイス、黒ぶどうはピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、タナ、テンプラニーリョ、デュリフ、そしてドルチェットを栽培しています。ヒックス監督といえば、感動の名画『シャイン』で名をはせた方ですが、アカデミー賞の候補にもあがった同作品の成功でワイナリーを所有する夢も実現したようです。

●ワインを三つの言葉で表現すると

 日本未入荷の貴重なワイン、ましてやオーストラリアで栽培しているドルチェットは珍しいです。今年の3月現地ビクトリア州でイタリア系品種を栽培・生産しているワイナリーのワインを試飲しましたが、ネッビオーロ、サンジョヴェーゼ、バルベーラはありましたが、ドルチェットは見かけませんでした。そんなわけで、オーストラリア産とイタリア産のドルチェットの違いも確認したくなり、イタリアワインに精通している『ヴィーニ・ディ・アライ』のオーナーソムリエ荒井基之氏と同店の看板ソムリエール井村千寿子さんの意見を聞くために、ワイン持参で同店へ。おふたりにはブラインドで『ドルチェット2002』を試飲してもらいました。

 映画の中のテイスティングシーンで、オーナーのポーラがスタッフに「このドルチェットを“三つの言葉”で表現して」と言うセリフがあります。私も早速まねてみました。

 荒井ソムリエは(1)輝き、(2)若々しい後味、(3)フルーツを食べている印象。井村ソムリエールは(1)チャーミング、(2)甘酢っぱさ、(3)赤い果実、という三つの言葉で表現してくれました。

●トップソムリエが重要視するワインの供出温度

 私がワインを持参した段階での温度は24度でした。その温度で試飲すると甘い香りが広がり、ヨーグルトの甘酢っぱさやジャムっぽさ、オークに由来するヴァニラ香を強く感じます。トップソムリエが一番気を使うのは、何と言っても“ワインの供出温度”。荒井ソムリエはグラス1杯分は持参したばかりの温度で注ぎ、残りのワインはデキャンティングして氷水につけ冷却、供出温度を18.5度にしてから違うグラスで試させてくれました。口中での印象が違います。ドルチェットの甘酢っぱさが引き立ち、高い温度の時にはあまり出てなかったタンニンも感じます。全体的にワインがぐっと引き締まり、品質がアップした印象になりました。

●オーストラリアとイタリアのドルチェットの違い

 荒井ソムリエは「『ドルチェット2002』は低い温度からはじめて、温度変化を楽しんだほうが良い。オーストラリアのドルチェットは初めてだが、イタリア産でこのようなタイプがあれば買うよ(笑)。もちろんワインの造りの違いはあるが、イタリアのドルチェットは全体的に少し田舎っぽい感じ。オーストラリアのドルチェットは可愛らしく造っている印象を受ける」とコメントしてくれました。ヤッカ・パドック・ヴィンヤーズのワインはワイナリーのサイトから注文することはできますが、ケース単位になっています。

 映画『幸せのレシピ』に登場したチャーミングなドルチェットは軽い肉料理から果物、チョコ、チーズと組み合わせる食材も様々。荒井ソムリエは「うなぎのかば焼きもOK」と一言。魅力的なワインです。映画を観た後で、ワインが飲みたくなったら、ドルチェットはいかがですか?

 きっと『荒井ソムリエのレシピ』がお役に立つはずです。

幸せのレシピ (原題:No Reservations)

2007年9月29日(土)より、東京・丸の内ピカデリー1ほか全国ロードショー

監督:スコット・ヒックス

出演:キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、アーロン・エッカート、アビゲイル・ブレスリンほか

配給:ワーナー・ブラザース映画

【日本で購入できるドルチェットなら】

  • アルド・コンテルノ

  • ヴァルフィエリ

  • プルノット

  • ブルーノ・ジャコーサ

  • ピオ・チェザーレ

プロフィール

青木 冨美子(あおき・ふみこ)
慶応義塾大学卒業。(社)日本ソムリエ協会機関誌編集長http://www.sommelier.jp。NHK、大手洋酒メーカーを経て、現在、フリーランス・ワインジャーナリスト。1990年(社)日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー資格取得。著書に『おいしい映画でワイン・レッスン(講談社刊)』協力執筆『ワインの事典(柴田書店)』監修『今日にぴったりのワイン(ナツメ社)』など。女性誌への執筆、各種企業向けワイン講師のほか、現在、昭和女子大学オープンカレッジの講師として活躍中。個人のBlogは『青木冨美子の公式Blog』

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