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コラム「ワインの歳時記」

数の子&シャンパン好きの皆さまに捧げる『数の子リポート』

2008年01月15日

 今回は2008年最初の『ワインの歳時記』で取りあげた“数の子”の、追跡リポートです。

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手前の3本が『スデュイロー』、後方の2本が『5年熟成のバルサミコ』で下準備した数の子

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5年熟成のバルサミコは光沢があり、味わいもなめらか

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おだしは目白の江戸料理『太古八』の女将からいただいた削り節を使って

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黄金色の『シャトー・スデュイロー1999』、グラスはリーデル社のソムリエシリーズ『ソーテルヌ』

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(左から)甘口ワインの『シャトー・スデュイロー1999』、シャンパンの『アンリオ・ブリュット・スーヴェランNV』、アルコール強化ワインの『マンサニーリャ』

 トライアルは2回行ないました。バルサミコを使って数の子を浸すと色が染まってしまい、視覚的に難ありでしたので、再度挑戦することにしました。この顛末記が数の子&シャンパン好きの皆さまのお役に立てば幸いです。

●1回目はバルサミコを使い、だし汁には隠し味としてシャンパンを

 年末、目白の江戸料理『太古八』の女将から『削り節』をいただきました。削りたてのフレッシュなカツオ節の香りは大いに食欲をそそりますよね。元旦には我ながら上質のお雑煮が作れたので、今回の主役“数の子”のおだしにも、この削り節を使いました。

 だし汁は2カップで、薄口しょうゆとお酒は各大さじ3杯、塩少々(だし汁の味をみて加減調整を)を煮立て、だし汁がさめたら、数の子を漬け込みます。この時、バットは2つ用意しました。各1カップずつに分け、1つのほうに隠し味として「大さじ1杯のシャンパン」を加えました。

 数の子を浸すバルサミコはジャコバッツィ社の5年熟成もので、揮発性の香りは嫌味がなくソフト、味わいにもまるみがあります。2日間かけて塩抜きした数の子の水分をよくふき取り、バットの中のバルサミコに10分程度浸し、その後、数の子についたバルサミコをよく洗い流し、水分をふき取ってからだし汁に。だし汁には2日間ほど浸しておきました。

●1回目のトライアルでの問題点とマリアージュ報告

 バルサミコに漬けると、色白の数の子はみるみる色黒になり、染まり具合が均等にならないのが難点でした。とは言え、味わいは上々。隠し味として『アンリオ・ブリュット・スーヴェランNV』を入れて仕上げた数の子は、シャンパンとの相性がとても良く、旨みすら感じました。いつもの生臭さがなかったことがなんと言っても嬉しく、食べる素材に、飲むワインを少し加えることで相性はさらに良くなります。一方の隠し味を使わなかった数の子も“グルコン酸”効果なのでしょう、嫌味がなく好感度100%でした。

●高価な数の子には高価なワイン! 2回目は貴腐ワインも使って

 バルサミコのパワーは十分理解できました。問題は“色”だけです。そこで、2度目の挑戦ではバルサミコの染まり具合に十分な注意を払いました。そして、もう1種類。バルサミコと同じようにグルコン酸を含む高価な貴腐ワインも使ってみることにしました。

 フランスのボルドーにある甘口ワインの産地ソーテルヌ村とプレニャック村にまたがる『スデュイロー』で、ヴィンテージは1999年。評価の高いワインです。輝くような黄金色は魅力的でアンズやハチミツ、また少しローストした香り、口中での甘みは爽やか。後味の上品な酸味が印象的です。

 まず、小さなボウルにスデュイローを50mlだけ入れ、塩抜きした数の子を1本ずつ浸しながら丁寧に洗いました(約10分)。1回目と同じく、2つのバットにはシャンパンを隠し味にしたものと、そうでないものを用意して数の子を漬け込んでおきました。

●グルコン酸の働きは凄い!

 だし汁が滲み込んだ数の子には、3種類のワインを合わせて相性をみました。(図参照)

 1本目は数の子の下準備に使った『シャトー・スデュイロー1999』、2本目は、数の子の隠し味にも使ったシャンパン『アンリオ・ブリュット・スーヴェランNV』、そして3本目はスペインのヘレス地方サンルーカル・デ・バラメーダ地区の『マンサニーリャ』、現地の若者に人気があるシェリーです。

 マリアージュの結果はわかりやすいように一覧表にしてみました。(1)とAの組み合わせでは最初にほんの少し生臭みを感じましたが、その後は問題がなく、グラスも生臭くなりません。これは大事な事です! (2)とA、(1)とB、(2)とBはそれぞれ相性は◎、すべての悩みが解決できた気分です! そして予想通り、(1)&(2)とCは特に問題はありませんでした。

●素敵な応援団がいる幸せ!

 素敵なサポーターさんたちの応援のおかげで『ワインの歳時記』を楽しく執筆させていただいています。今回の“数の子編”でも、メールやブログを介して温かなエールをいただきました。

 なかでもフードコーディネーターの根本友子さんからのアドバイスは、『数の子顛末記』の締めくくりを飾るのにふさわしい内容になりそうです。それはバルサミコ・ビアンコ情報です! 下準備をしている段階で、数の子に付着してしまうバルサミコの“色”がどうしても気になっていたのですが、ビアンコの存在はその悩みを解決してくれそうです。

 彼女が書いているバルサミコ・ビアンコの項には「むせるのを我慢しながら香りを嗅ぐと、完熟バナナやくちなしのような甘い香りがズ〜っと奥の方に隠れています。(中略) このヴィネガーはすでにハチミツのコクと甘味を持ち合わせているので、美味しいオリーブオイルと塩・コショーがあれば、バツグンのドレッシングができます。ちなみにソーヴィニヨン・ブランから作られているそうです」という紹介文がありました。

 数の子に含まれるヒポキサンチンを中和させる効果があるグルコン酸。この1週間、数の子ざんまいだったので“バルサミコの効果”は十分に実感できました。そのバルサミコにビアンコがあるなら、数の子を色黒にすることなく、見事な中和作用を発揮してくれることと思います。

■グルコン酸を含むワインで下準備をした数の子とワインとの相性

【お試しいただきたいアイテム】

  • 『シャトー・スデュイロー』
  • アンリオ社『ブリュット・スーヴェランNV』
  • ラ・ヒターナ社『マンサニーリャ』
  • ジャコバッツィ社『バルサミコ』5年熟成
  • リーデル社ソムリエシリーズ『ソーテルヌ』

プロフィール

青木 冨美子(あおき・ふみこ)
慶応義塾大学卒業。(社)日本ソムリエ協会機関誌編集長http://www.sommelier.jp。NHK、大手洋酒メーカーを経て、現在、フリーランス・ワインジャーナリスト。1990年(社)日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー資格取得。著書に『おいしい映画でワイン・レッスン(講談社刊)』協力執筆『ワインの事典(柴田書店)』監修『今日にぴったりのワイン(ナツメ社)』など。女性誌への執筆、各種企業向けワイン講師のほか、現在、昭和女子大学オープンカレッジの講師として活躍中。個人のBlogは『青木冨美子の公式Blog』

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