「仲よき事は美くしき哉(かな)」。文豪・武者小路実篤(1885年〜1976年)の言葉をあしらったバレンタインチョコが人気だ。東京都調布市の武者小路実篤記念館が2004年から発売。先着1千個の予約は早々に埋まる。ヒットの秘密は何だろうか。
同市若葉町1丁目にある実篤公園。わき水と緑豊かな公園は、実篤が「水のあるところに住みたい」という子どもの頃からの願いをかなえ、90歳で亡くなるまで20年間を過ごした旧邸宅が残る。
その隣接地にある記念館には、遺族から寄贈された原稿や手紙、絵や書などが収蔵されている。中でも来館者に人気なのが、書画が描かれた色紙類だ。
「40歳を過ぎた頃から始め、寝込まない限り毎日、亡くなる直前まで続けていました。その数は1万点とも2万点とも言われますが、大半が個人に渡ってしまいました」と学芸員の伊藤陽子さんが説明した。
その色紙の言葉のうち、最もポピュラーなのが「仲よき事は美くしき哉」だ。ほかにも「君は君我は我也(なり)されど仲よき」や「この道より我を生かす道なしこの道を歩く」などが有名だ。
「どれも『当たり前のことばかり言っている』と言われます。でも実篤にとっては、自分の実感を込めた大切な言葉なんです」と伊藤さん。
1910(明治43)年、志賀直哉や有島武郎らと雑誌「白樺(しらかば)」を創刊し文壇にデビューした実篤は、「おめでたき人」「その妹」などの代表作を次々と発表していく。が、白樺派の面々はだれもが強烈な個性の持ち主だった。
包容力があり、異なる意見も受け入れる度量があった実篤に対し、志賀直哉はストイックで神経質、ダメなものはダメと断じる人間だった。文学上の意見の相違で直哉が実篤に絶交状を送りつけたこともある。理想社会を目指して宮崎や埼玉に実篤が創設した「新しき村」の活動でも、「仲よき事」は重要なキーワードだったに違いない。
「だからこの言葉は必ずしも男女の仲を指すものではありません。ただ実篤の色紙は昭和20年代後半から50年代にかけて複製が量産され、かつてはどの家にもありました。家にあった世代には懐かしく、それ以降の世代でも言葉は知っている人が多いんです」
チョコを求める人も若い女性に限らない。仲間で集まるからとお年寄りが購入したり、男性の予約も少なくないという。
1箱470円。予約受け付けは7日まで。先着1千個で締め切り。館内のショップなどでも販売している。申し込み、問い合わせは記念館(03・3326・0648)へ。
バレンタインシーズンに合わせ、記念館では実篤の交友をテーマにした「君は君我は我也されど仲よき」展も開催中。3月4日まで。(三沢敦)
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