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ブラックジャック列伝:4 「宿命のライバル」が競い合う心臓手術

2006年6月22日

須磨久善さん須磨久善さん

天野篤さん天野篤さん

南淵明宏さん南淵明宏さん

鈴木章夫さん鈴木章夫さん

 派手な手術、の一番は心臓だろう。一つ間違えば死につながる。その分、腕の良しあしはわかりやすい。名医がいれば、患者が患者を呼び、新興の病院が数年でブランド病院に変わることさえある。

 千葉県松戸市の新東京病院が典型的なケース。心臓血管外科ができた翌92年には、いま有名な3人がそろった。部長の須磨久善(すまひさよし)(56)と須磨が採用した天野篤(あまのあつし)(50)、同じく南淵明宏(なぶちあきひろ)(48)。当時30〜40代の働き盛りだった。

 須磨は母校の大阪医大に勤務中、バイパス手術の新手法を考えた。心臓の筋肉に血液を送る血管がつまっておこる心筋梗塞(こうそく)の予防や治療のため、それまでは足や胸の血管をつないで血液の道をつくっていた。須磨は胃の血管を使って名をあげ、三井記念病院にスカウトされた。提携していた新東京病院に心臓血管外科をつくり、双方の病院の部長を兼務した。

 天野と南淵は、出身は日本大、奈良県立医大と違うが、同じ83年卒業の「宿命のライバル」。心臓外科医を目指した2人は国立循環器病センターへの入所を希望した。南淵は研修医になったものの、天野は落ちた。

 悔しさをバネに、天野は千葉県の亀田総合病院で黙々と手術をこなした。南淵は88年、手術の多さで知られていた亀田総合病院の見学に訪れた。迎えたのが天野。「循環器センターの君が、落ちた僕の病院を見にきてくれてうれしい」と言われ、南淵は驚いた。天野の技術に追いつこうとオーストラリアへの修業に出る。

 南淵は英文専門誌で、須磨の論文を読んだ。日本人が発表するのは、臨床から遠い「ネズミ論文」が多かったが、須磨のは人間の手術法がテーマだった。感激して手紙を書いた。しばらく後、須磨から誘いを受けて帰国した。新東京病院に行って、また驚いた。なんと天野がいた。

 心臓外科医募集に応募した天野を、学会で存在を注目していた須磨が採用していた。天野は実力を蓄え、転職を希望したのだ。

 南淵を採用する際、須磨は天野に聞いた。「年も実力も近い。2人は食うか食われるかになるが、いいか」。天野は「望むところです」と答えた。

◇        ◇

 腕に自信のある医師は、比較的簡単に病院を移る。人間関係や待遇への不満、そして、より自由な働き場を求めて。3人も次々に新東京病院を離れた。

 神奈川県の湘南鎌倉総合病院に移った須磨は96年、心臓移植が必要だと思われた心筋症患者のバチスタ手術(心臓縮小手術)に日本で初めて挑んだ。手術法も改良した。葉山ハートセンター病院を開院させ、昨年、東京・六本木の心臓血管研究所病院に移った。外国での分も含め心臓手術はざっと5千件。

 天野は現在、順天堂大教授。「優秀な外科医を作りたい。大学では無理だ、と南淵は言う。だったら、やってやろうじゃないか」

 南淵は神奈川県の大和成和病院心臓病センター長。小病院に開設した心臓外科を全国ブランドにした。「手術でピンチの時に、天野ならどうするかと考える。負けられないから」。文才もあり、「週刊現代」に連載を持つ。

◇        ◇

 鈴木章夫(すずきあきお)(76)は一世代前の名医。日本人はほとんど研究のために留学していた時代に米国の臨床現場に飛び込んだ。74年、順天堂大の胸部外科教授として帰国した。須磨はその鈴木から4年半、きびしく手術を教え込まれた。

 鈴木の業績はすごい。76年、手作りした大動脈弁を、米国人上司と一緒に重症患者に移植し、今日の人工弁治療の道を開いた。バイパス手術に胸の動脈を初めて使ったのも鈴木だ。手塚治虫(てづかおさむ)はマンガの中で、「J大の鈴木教授しか成功していない心臓手術」を「ブラック・ジャック」にさせている。

 鈴木は「外科医は上手な手術で患者を助けるだけでなく、治せない病気の手術への挑戦が大事だ」と後輩たちに注文をつける。いまは母校・東京医科歯科大の学長。国立大学が法人化され、学校経営に苦労している。(田辺功)

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 「ブラックジャック列伝」は、朝日新聞の夕刊に「ニッポン人脈記・ブラックジャックたち」として、2006年6月19日から7月8日にかけて連載されました。

 数多くの重症患者を、その手さばきによって救い出した「神の手」を持つ医師たちを紹介したシリーズです。これほどまとまった連載は他に類を見ないと評判で、掲載から4年がたっていますが、今もって参照されることが多い記事です。登場する医師たちは、他のメディアで個別に紹介されることも少なくありません。

 朝日新聞の医療サイト・アピタルには欠かせないコンテンツとして、連載のすべてを公開しました。

 登場人物の年齢、肩書きなどは、すべて掲載当時のものです。(アピタル編集部)

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