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乳癌の術後再発予防のための治療について

聖路加国際病院
乳腺外科部長 中村清吾

本シリーズの第2回目に、1cmの大きさの乳癌は、既に数十億の細胞の塊であり、そこに至るまでには約7、8年の歴史があるとお話をしました。そして、手術をした時点で体のどこかに潜んでいるがん細胞の芽が出てくるのが再発であり、乳房以外の場所に発生する場合を転移といいます。

リンパ節転移の個数が、予後を反映するといわれ、リンパ節転移のないものが最も良く、次に1〜3個群、4〜9個群、10個以上の順で、5年、10年で見たときの再発率が段階的に下がります。したがって、リンパ節転移は、癌を克服できるかどうかを予測するうえで、最も拠り所となる予後因子です。

しかし、仮にリンパ節転移がなくとも、10%前後の方が再発するので、他にどのような因子が関係しているかを調べる研究も数多く行われています。その結果、ホルモン感受性(女性ホルモンの影響で大きくなるタイプか否か)、腫瘍の大きさ(2cm以上か否か)、年齢(35歳未満か否か)、核異型度(がん細胞1個1個の顔つきのようなもので、活発に増殖するタイプを3とし、1〜3に分ける)などが、予後因子として浮かび上がりました。

最近では、がん細胞の表面で癌の増殖を促す指令を伝える働きをするHer2(ハーツー)受容体(その多寡により0〜3の4段階に区分される)や、がん細胞周囲のリンパ管や血管内にがん細胞が流れ込んでいるか否か(リンパ管侵襲や脈管侵襲といいます)も、予後因子として評価されるようになりました。これらの要素がどの程度あるかによって、将来の再発の可能性を予測し、その程度に応じて、種々の対策を講じようというのが、再発予防の基本戦略です。

それでは、次に具体的な治療戦略について説明します。まず、乳癌の60〜70%は、女性ホルモンの刺激で活発に増殖するため、エストロゲン、プロゲステロンという女性ホルモンを受け入れる窓口(受容体:レセプター)を持っている場合は、その窓口をふさぐ働きをする抗女性ホルモン剤(タモキシフェン)や、エストロゲンの産生そのものを抑える薬を再発予防薬として用います。

閉経後の女性では、コレステロールを材料として、アロマターゼと呼ばれる変換酵素の働きにより、女性ホルモンが産生される経路があります。一方、閉経前の女性は、卵巣から大量に出る女性ホルモンを抑えることも合わせて行います。また、リンパ節転移が高度で、再発の可能性が高い場合は、ホルモン療法に先行して、化学療法を行います。

一方、ホルモンレセプターを持たない乳癌では、化学療法、いわゆる抗がん剤が再発予防の主役となります。2005年5月に開かれたASCO(米国臨床腫瘍学会)では、Her2が3+もしくは、Her2が2+以下でもFISH(蛍光抗体法)陽性の場合、がん細胞表面のHer2受容体に競合的に結合して増殖シグナルをブロックするハーセプチンを術後補助療法として用いることで、更に再発予防効果が高まるという大規模臨床試験の中間解析の結果が発表され大きな話題となりました。

いまだ、長期のデータが出ていないこと、どのくらいの期間使えばよいかということに関して臨床試験の結果が出ていないので、慎重な対応が必要です(日本では、再発乳癌のみ保険適応)が、ホルモン剤に続く画期的な薬剤がラインアップとして出てきたことになります。いずれにせよ、自らの癌の特徴を知り、どの程度再発のリスクがあり、どのような薬剤が候補として挙がり、それぞれの再発予防効果や副作用はどの程度なのかを知ることができれば、治療方針を決定する上で大いに役に立つでしょう。

次回は、術後の経過観察と再発転移に関する診断と治療の基本的な考え方についてお話します。

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