
第4回
局所療法の進歩
京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学分野教授
戸井 雅和
今回は、乳がんの手術を中心に述べます。
乳がんの系統的手術は19世紀末、ハルステドにより確立されました。乳房、大胸筋、小胸筋、腋窩を一括して切除する術式です。乳房から腋窩(えきか=脇の下)、がん細胞が転移する可能性がある領域をすべて取り除くという考え方で、根治的乳房切除術の名称があります。
20世紀の前半にはさらに切除範囲を拡大し、鎖骨の上のリンパ節や胸壁の中のリンパ節まで切除した時もありました。20世紀後半に入ると大胸筋や小胸筋などの筋肉を切除することは少なくなり、80年代に入ると、イタリアのベロネシや米国のフィッシャーらにより乳房温存手術が行われるようになりました。
乳房温存手術が開発された背景には大きくふたつの要因があります。ひとつは小さな乳がんの増加です。もうひとつは乳がんの理解が進んだことがあります。また、放射線治療を併用する集学的治療の考え方が導入されたことも重要です。手術と放射線併用療法が著しく局所再発を抑えることは、最近の世界的研究でも明らかになっています。
さて、90年代後半になると腋窩の手術に大きな変化が起きました。それまで、腋窩の手術は郭清(かくせい=切除)、リンパ節を脂肪とともに一括してすべて取り除くのが通常でした。リンパ節に転移があってもなくてもこのような手術を行っていました。転移があるかないか、すべて取ってみないとわからなかったからです。
ところが、すべてをとらなくても、部分的に取って調べれば腋窩のリンパ節への転移の状況を判断できる、センチネルリンパ節という概念が出てきました。
小さな傷で数個のリンパ節を取って調べ、そこに転移がなければその他のリンパ節にも転移はまずないという見張り番のリンパ節、センチネルリンパ節の考え方です。
従来、どのリンパ節が見張り番かがわからなかったのですが、放射線同位元素や色素を用いてそのセンチネルリンパ節を見つけだすことができるようになりました。最近では蛍光法と呼ばれる新しい手技も開発されており、より確実に見張り番にたどり着くことができるようになっています。
乳房のリンパの大部分は腋窩に流れ込みますが、その流れが集約する部分に、センチネルリンパ節は存在します。一つとは限らずしばしば複数個存在します。がん細胞はこのルートを通って転移をします。リンパ節への転移です。血管に入る転移とともにがんの転移の主要な経路です。
センチネルリンパ節に転移がなければ、多くの場合、その他のリンパ節にも転移がありません。したがって、センチネルリンパ節転移がない場合、腋窩の完全郭清が行われることは少なくなりました。強い腕のむくみが出る可能性は激減し、美容的にも著しく向上しました。大きな進歩といえます。
乳房温存と腋窩切除の縮小は、最近の20年間で、以前とは比べようもないほどの変化を遂げました。格段の進歩といって差し支えないといえます。
ただ、その進展は病理組織学の進歩や放射線診断学、放射線治療学の進歩に裏付けされたものです。放射線診断、外科手術、病理診断、放射線治療が一体となって実現したもので、いずれが欠けてもうまくいきません。集学的なチーム医療の基ではじめて成立する治療法です
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次回は、全身治療の局所療法への貢献について述べます。術前の薬物療法と局所療法の関係についてです。
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