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シリーズ「感染症」

日本で増えるHIV感染者、症状なくても検査を

本田美和子・国立国際医療センター戸山病院医師

2009年3月30日

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写真本田美和子・国立国際医療センター戸山病院医師

図拡大グラフ1

図拡大グラフ2

 「HIVという病気があることは、もちろん知っていました。でも、それが自分の身に起こるなんて想像したこともありませんでした」

 わたしの外来にお越しになる患者さんの多くは、一様にそうおっしゃいます。

 ヒト免疫不全ウイルス感染症(HIV)は、今、日本の社会の中に静かに確実に広がりつつあります。

 「先進国でHIV感染者が増えているのは日本だけ」というフレーズをお聞きになったことがあるかもしれません。しかし、これは正確な記述ではありません。

 正しくは、「2009年の現在、世界の新規感染者は減少していますが、日本は完全に逆行した傾向を示しています」です。

■気づかぬまま誰かに

 グラフ1は昨年、国連エイズ計画が発表した、新たにHIVに感染した人々の数です。世界で新しくHIVに感染した人の数は1996年をピークに徐々に減少傾向にあります。

 残念なことに日本の傾向はまったく逆です。

 グラフ2でお示しするように、HIVに感染した人の数は右肩上がりに増えています。この統計は「厚生労働省のエイズ動向委員会」に届け出られたもので、昨年は1500人の新規感染者が報告されています。これまでの累積感染者数は1万3000人を超えました。

 しかし、実際にはこの何倍もの方々が「自分がHIVに感染している」ことを知らずに生活し、知らぬまま誰かにHIVをうつしてしまっている、というのが日本のHIV感染症の実態です。

 HIVは粘膜と粘膜とが濃厚に接触することで、具体的には性行為を通じて、感染します。わたしたちの粘膜は外から侵入する病原体をある程度防ぐ働きを持っていますが、感染症などで粘膜機能が破綻(はたん)している場合、たとえば、クラミジアや淋病(りんびょう)やヘルペスなどの感染症がある場合には、感染の危険は高くなります。粘膜同士の接触を断つ、という点でコンドームはとても有効な感染予防の手段です。

 HIVに感染しても、「あ、HIVに感染した」とわたしたちが気づくことはほとんどありません。HIVの急性感染症候群と呼ばれる、一過性にのどが痛かったり、熱が出たり、筋肉痛があったり、というような症状があるのですが、これはいわゆる風邪の症状ととてもよく似ているので、見逃しやすいのです。

 この急性感染の時期を逃すと症状はほとんどなくなってしまい、次に症状が出てくるのは、免疫の機能が破壊されてしまって、普通の人にとっては問題のない病原菌によって引き起こされる、日和見感染症を起こしてしまった時、すなわち「エイズ発症」の状態の時です。この時点で見つかるのでは遅すぎます。

 HIVに感染しているかどうかは血液検査を受けなければわかりません。まだ何の症状もないときに、「自分はHIVに感染していないだろうか」と考えて検査を受ける、というのが理想的です。

■全国に拠点病院

 HIV感染症はもはや特別な人が感染する、特別な病気ではありません。わたしの外来には、公務員、会社員、大学の先生、主婦といった、ごくごく普通の社会生活を送っている方々が通っていらっしゃいます。

 どなたかと一度でも性的な接触があれば、HIV検査を受ける十分な理由があります。お近くの保健所でぜひ、検査をお受けになってみてください。各都道府県の保健所では無料で匿名で検査を受けることができます。

 もし、残念なことにHIVに感染していることがわかったら、すぐに専門機関にご相談ください。全国にHIV治療の拠点病院があり、HIV診療の専門家がいます。

 この病気は一度感染すると治ることはありません。しかし、とても良い薬ができたので、死に至る病ではなくなりました。主治医と健康管理の相談をしながら、これまでと同じ暮らしを続けることができます。自分と自分の大切な人を守るために、HIVの検査をぜひ受けてみてください。

     ◇

 本田美和子(ほんだ・みわこ)国立国際医療センター戸山病院エイズ治療・研究開発センター専門外来医長。緩和ケア科併任。1993年筑波大医学専門学群卒業。国内での卒後研修後に、米国トマス・ジェファソン大内科レジデント、コーネル大老年医学科フェローを経て2002年より現職。著書に「遥か彼方で働くひとよ」「エイズ感染爆発とSAFE SEXについて話します」(朝日出版社)、「Dear DoctorS ほぼ日の健康手帳」(東京糸井重里事務所)などがある。

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 病気になったり、けがをしたりした時、誰もが安心して納得のいく医療を受けたいと願います。多くの医師や看護師、様々な職種の人たちが、患者の命と健康を守るために懸命に働いています。でも、医師たちが次々と病院を去り、救急や産科、小児科などの医療がたちゆかなる地域も相次いでいます。日本の医療はどうなっていくのでしょうか。
 このコーナーでは、「あたたかい医療」を実現するためにはどうしたらいいのか、医療者と患者側の人たちがリレー形式のエッセーに思いをつづります。原則として毎週月曜に新しいエッセーを掲載します。第二シリーズのテーマは「感染症」。だれもが襲われうるウイルスや細菌に医療者や患者が一緒にどう立ち向かうべきか考えます。ご意見、ご感想をお待ちしています。

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