「1、2、3」
横浜市の高校3年生、川西謙吾(かわにし・けんご)君(18)は毎朝7時ごろ、母親の真知子(まちこ)さん(50)の掛け声で身支度を始める。ベッドの上で朝食を食べ、歯を磨き、ベッドの脇でトイレも済ませる。
謙吾君は、手首や足首の先しか動かせない。全身の筋肉が徐々に衰えていく筋ジストロフィーのためだ。通学の際には、真知子さんが身長150センチ、体重69キロの謙吾君をおぶって車いすに移す。
謙吾君に異変が起きたのは、1歳半のとき。17年前の3月、かぜで高熱が出た謙吾君を近くの病院に連れていくと、念のために血液検査を受けさせられた。「尋常ではない」と言われ、訳がわからぬまま、聖マリアンナ医大横浜市西部病院(横浜市)小児科を紹介された。
精密検査を受けると、肝機能を示すGOTの値などが高かった。だが症状はなく、原因もわからなかった。7月に入り、クレアチンキナーゼという筋肉の細胞が壊れたときに出てくる酵素の値も異常に高いことがわかった。筋肉関係の病気が疑われ、9月に同じ病院の小児神経外来を受診することになった。
そこで初めて、謙吾君に筋ジストロフィーを含む筋疾患の可能性があることや、正確な診断には専門の施設での検査が必要だと説明を受けた。
「筋ジスの可能性も」という言葉を聞き、真知子さんは、頭が真っ白になった。「確認検査をしなければ」と思う一方、確かめるのが怖かった。専門の横浜市立大市民総合医療センターを紹介してもらう気になれたのは、2年後の3月だった。
翌月、遺伝子を調べる血液検査を受け、デュシェンヌ型の筋ジスと診断された。筋ジスは遺伝子の異常によって筋肉の細胞が壊れ、筋力が低下していく病気の総称で、呼吸器や心臓の筋肉にまで進むと、呼吸不全や心不全を起こす。デュシェンヌ型は中でも、重いタイプだった。
「10歳前後で歩けなくなり、20歳を超えると生命的に危ないことが起きる病気です」。主治医の小林拓也(こばやし・たくや)さん(49)(現・能見台こどもクリニック院長)から説明を受けた真知子さんは「何でうちの子が」と、何も考えられなくなってしまった。(本多昭彦)
※ 「患者を生きる」は、2006年春から朝日新聞生活面で連載している好評企画です。病気の患者さんやご家族の思いを描き、多くの共感を集めてきました。
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