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“喫煙者は腰痛になりやすい”ことが、日本大学医学部整形外科教授の松氏浩巳氏らの実験で明らかになった。これまでも、疫学的な調査などでタバコに含まれるニコチンの作用により喫煙が腰痛の原因になることを指摘するデータは複数あったが、科学的に実証されたのは初めてのことだ。
実験にはウサギを使い、1つのグループのウサギには、背中にとりつけた装置から、タバコを1日に20本から30本吸う人と同じ血中濃度(120ナノグラム/mm)になるようにニコチンを生理食塩水に溶かしたものを4週間から8週間投与し、もう一方のグループには、同じく生理食塩水のみを投与した。 ニコチンを与えていたウサギは、生理食塩水のみを与えていたウサギに比べて椎間板の変性が大きく、とくに8週間与えていたウサギには大きな変化が見られた。 椎間板は、線維軟骨の層が円のように重なり合った線維輪と、その中心にある髄核というやわらかいかたまりからできているが、8週間ニコチンを与えられたウサギの椎間板は、線維輪が裂けてスカスカになり、髄核は空洞化していた)。 「椎間板には血管がないので、周囲の血管から染みでた栄養分をスポンジが水を吸い込むように吸収しているのですが、8週間ニコチンを与えたウサギの場合、血管の数が生理食塩水を与えたウサギの1/2程度に減っていました。ニコチンの血管収縮作用によって多くの血管がつぶれたため、十分な栄養がいきわたらなくなり、椎間板が変性したものと考えられます」 さらに、髄核のもつたんぱく質を合成する能力、線維輪のコラーゲン合成能力も1/3以下に低下していたという。
椎間板は、骨と骨の間にあって、衝撃を吸収するクッションの役割をしている。その80%は水分でできており、変性した椎間板では水分が大幅に減ってしまうため、本来の半分程度の厚さになってしまう。 「クッションがうすくなるため、骨同士がぶつかってとがってしまい(骨棘)、それが神経を圧迫する。また、椎間板が縮んでバランスが悪くなるため、周りの靭帯がそれをカバーしようと厚くなり、やはり神経を圧迫する。そのために腰痛がおこるのです」 実験では、同じ軟骨でもひざの軟骨には変性が見られなかった。ニコチンには血管収縮作用のほかに、細胞そのものを壊す細胞毒性という性質もあるが、ひざの軟骨に変性がおこらなかったことから、血管収縮のほうに原因のあることがわかった。 ひざの軟骨は関節液から栄養が吸収できるため、血管が収縮しても椎間板ほど影響を受けないからだ。
松氏らは、研究データをより正確なものにするために、ラットを人間の喫煙に近い状態で受動喫煙させる実験を行った。 自動的にタバコに火がついて煙がでる装置をつくり、1日20回1時間ごとに5分間ずつ、ラットに受動喫煙させるというものだ。そして、4週間後と8週間後の椎間板の状態を調べたところ、ウサギを使った実験ほどではなかったものの、4週間、8週間とも変性が見られ、やは8週間のほうが変化が大きかったため、先の実験が裏づけられた。 以上の結果から、「健康な椎間板は、日常生活のなかで少々の負荷がかかっても簡単に壊れることはありません。しかし、喫煙によって壊れやすくなっている椎間板は、小さな負荷の積み重ねでも、より壊れやすくなっていきます」と(松氏)。 「すでに腰痛をおこしている人、とくに日常で腰に負荷のかかる仕事をしている人は、タバコは吸わないほうがよいでしょう」と指摘している。 実験では、8週間受動喫煙をしていたラットを3週間禁煙させると、椎間板が修復されることもわかった。松氏は「若い人なら、禁煙によって、すでに壊れかけている椎間板が修復される可能性がある」としている。 松氏らは、以前、日大駿河台病院と同板橋病院の椎間板ヘルニア患者に喫煙の有無を問う調査を行った。その結果、喫煙者の割合が男性72%(成人男子の喫煙率は52%)、女性19%(成人女性の喫煙率は10%以下)と、一般に比べて明らかに高率だったことが、この実験のきっかけになったという。 現在、松氏らのグループは、椎間板の変性と遺伝子の関係についての実験を行っている。
(記事提供:保健同人社)
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