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うつ病の治療は、抗うつ剤による薬物療法を中心に行われる。しかし、なかには、くすりの効果が十分に現れず、長期化してしまうケースもある。杏林大学医学部精神神経科では、数年前からこうした患者を対象に、磁気刺激療法という治療法を試験的に導入し、その効果を実証してきた。 磁気刺激療法は、患者の左前頭部に磁気コイルを数秒間あるいは1秒間に数回、軽く当てることにより、脳に刺激を与える療法。 「脳に刺激を与えるのは、磁気そのものではなく、強力な磁場を生じさせることによって生じた電流です」と、実際に治療にあたっている杏林大学医学部精神神経科教授の古賀良彦氏は語る。 従来、治りにくいうつ病の治療にもちいられ、一定の効果をあげてきた電気けいれん療法も、電流によって脳に刺激を与える治療法だが、その副作用から、否定的な治療法としてとらえられることが少なくない。 電気けいれん療法の最大の副作用である治療時のけいれんは、近年、麻酔の使用により抑えられるようになったものの、治療直後に考えが混乱したり頭痛が生じたり、後年になってけいれんやもの忘れを生じるケースもみられるという。 「磁気刺激療法では、磁気によって生じる電流がきわめて弱く、しかも、脳の特定の場所に狙いを定めて刺激を与えることができるため、コイルを当てた部分が軽くチクチクするだけで、副作用もほとんどありません。それでいて同程度の効果が得られる点が最大のメリットです」(古賀氏) 杏林大学医学部では、これまでにくすりによって十分な治療効果がなかったうつ病患者70〜80人を対象に、この磁気刺激療法を実施してきたが、このうち3分の2に改善がみられた。 「磁気刺激療法は、抑うつや不安、イライラ、意欲低下など、うつ病の症状にほぼまんべんなく効果があり、とくにくすりの効きにくい人や、副作用のでやすいお年寄りには積極的に使える治療法と考えています」(古賀氏)
現段階では、試験的な導入であるため、磁気刺激療法による治療は医療保険の適応にはならない。しかし、脳から末梢神経にいたる神経経路に病気がないかを調べる場合の検査法として、磁気刺激療法と同じ方法が、ひと足先に保険の適応になっている。 「検査に使われるというのは、安全性が高い証拠です。現在は入院している患者さんを治療の対象にしていますが、いずれは入院せずに通院で治療し、改善後は維持療法として月に1回程度のペースで行っていくという方法も十分に可能になるはず。また、軽症の患者さんに対しても、くすりに代わる治療法として期待されます」(古賀氏) 磁気刺激療法は、すでに、アメリカやカナダでうつ病の治療法として、広く使われているものの、その効果のメカニズムや持続性については、まだ詳しく解明されていない。 古賀氏らは、治療前後の脳の血流量を計測しており、その結果、治療後の血流量が増えることから、「血流量の増加がかかわっているらしいという手がかりは得ているが、今後も効果のメカニズムと持続性についてさらに詳しく解明していきたい」という。 杏林大学医学部精神神経科では、希望者には、十分なインフォームド・コンセントを行ったうえで、この治療法を実施している。
(記事提供:保健同人社)
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