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日本人の20人に1人は耳鳴りが原因で日常生活に支障をきたしているという。こうした耳鳴りに対し、心のケアを重視した「TRT(耳鳴り順応)療法(Tinnitus Retraining Therapy)」が注目されている。
耳鳴りは急性のものと慢性のものに大別されるが、TRT療法の対象となるのは後者のほうだ。 「一年以上続くような慢性の耳鳴りの大半は怖くない耳鳴りです。しかし、患者さんを不安にし、QOLを大きく低下させます。また、耳鳴りは脳の機能と密接にかかわっているため、心の病気を引きおこすこともあります」と、早くからTRT療法にとり組んでいる千葉県のみつわ台総合病院副院長・耳鼻咽喉科部長の中川雅文氏。 耳鳴りは、蝸牛という耳の奥で音を感じとる器官が、疲労やストレス、老化などによって機能低下をおこすことで発生する。 「しかし、最初の原因は耳にあっても、それを慢性化、重症化させてしまうのは脳のはたらき」と中川氏。 人は、つねに耳に入ってくるすべての音を聞いているわけではない。脳が必要な情報だけを選んでとり込んでいるためだ。そのため、たまたま耳鳴りがしたときに、脳が「危険な音」と判断してしまうと、 病気と結びつけるなど不安になり、耳鳴りをさらに増幅させる。 「仕事をリタイアするなど、急に暇になった途端に、それまでは聞こえていても意識に上っていなかった耳鳴りが気になりだすというのが典型的なケースです」(中川氏) 夜、部屋を真っ暗にして床についたときに耳鳴りに気づく人が多い。気になって眠れなくなり、日中もイライラ。そのときに耳鳴りが聞こえてくると、“眠れないのは耳鳴りのせい”と思い込んでしまう。 「とくに精神的な悩みを抱えている人は、心の痛みを耳鳴りと結びつけて悪循環に陥っていくパターンがみられます」(中川氏) こうした心の問題にも着目し、カウンセリングと音響療法を組み合わせて、脳が耳鳴りを知覚しないように訓練する治療法が「TRT療法」だ。
みつわ台総合病院では、耳鳴りを訴えて受診すると、聴力や脳、生活習慣病の検査などを行ったうえで、医師や言語聴覚士が30分程度のカウンセリングを3〜4回行っていく。 「耳鼻科を受診する患者さんは、心に問題を抱えていてもそのことには気づいていません。カウンセリングは、そのことに気づくために、また、耳鳴りのメカニズムを正確に理解して、耳鳴りに対するネガティブな感情をとり除くために不可欠なもの」と中川氏。 しかし、理解すれば耳鳴りがすぐに気にならなくなるという人ばかりではない。そこで、第2段階として、補聴器やラジオを使った音響療法を行う。たとえば、軽い難聴のある人の場合は、補聴器をつけて、耳鳴りの音よりも周囲の音が大きく聞こえるようにすれば、耳鳴りは聞こえにくくなる。また、ラジオの音などをBGMとして毎日一定時間流すことで耳鳴りが気にならなくなる方法もある。 こうした方法でも改善しない場合に、TCIという補聴器型の耳鳴り制御機器をもちいる。1日数時間、海岸に静かに打ち寄せられる波のような音を、耳鳴りの音を消さない程度の大きさで聞くことで、耳鳴りだけに意識が集中しない状態をつくりだしていく。平均して1〜2年はかかるものの、この療法で約8割の人に症状の改善がみられるという。 TRT療法は、1990年代にアメリカで考案された。日本には2002年ごろに導入され始め、ここ1〜2年で注目されているが、中川氏は、TRT療法=TCIととらえられることを危惧している。 「TRT療法の基本はカウンセリングです。また、もう一方の柱である音響療法には、補聴器やラジオなどを使ったBGMといった方法もあり、適切な方法を選択することでTCIと同等の治療効果を上げています。医師とよく相談して、ご自分の病状を知ったうえで、適切な治療を選択してほしいと思います」(中川氏) 今のところ、TRT療法は健康保険の適応になっていないため、少なくともTCIについては実費となる。
(記事提供:保健同人社)
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