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ペットもつらい花粉症 特効薬ワクチン開発

 クシャミや目のかゆみなど、「花粉症」の症状を訴えるのは人だけではない。ペットの犬や猫も、花粉のアレルギー症状に苦しんでいるのだ。この時期、飼い主を悩ませるペット花粉症の現状と、新しく開発されたというDNAワクチンについて探った。

○画期的な治療法開発

 いよいよ花粉症のシーズンが本格化する。そんななか、2月下旬に「スギ花粉症」に対する画期的な治療法が開発されたと伝えられた。

 インフルエンザなどのニュースで一般にもなじみのある「国立感染症研究所」の阪口雅弘主任研究官が、東京大学農学部獣医内科学教室の増田健一助手とともに研究を続け、発表したものだ。ペットの飼い主たちの興味を引いたのは、「花粉症で皮膚炎になった犬に、月1回、3カ月の投与で数年間抑制できた」という点だ。

 阪口研究官は、今回の経緯についてこう話す。

 「われわれの研究では、スギ花粉のアレルギーの犬はアトピー性皮膚炎の犬の中で15%くらいいる。体内でのスギ花粉の認識パターンが、犬と人は似ているんですね。人への利用を考えてDNAワクチンの開発をしたのですが、その前に犬で臨床実験をしたところ、たいへん効果があった。犬用のDNAワクチンを作っていこうと考えました」

 この「特効薬」についてはあとで説明するとして、ペットの花粉症アレルギーがいかに蔓延しているか、飼い主の意見を聞いてみよう。

 

○散歩中にくしゃみを連発

 東京都大田区内のペットショップのオーナーの女性(49)は、2月半ばに愛犬のシーズー「葉菜」(9歳)の体調の変化に気づいた。

 「散歩に行こうと家を出て2、3歩歩いた途端、10回くらいクシャミしたんです。お寺など草木の多いところに行くと、とくにひどいですね」

 東京都稲城市の会社員の愛猫(16歳)も、春先になるとクシャミを連発するという。

 「僕は毎朝、目覚ましがわりに猫のクシャミで起きますよ。うちの猫は表に遊びに行くから花粉症になるんでしょう」

 千葉県に住む「元気」(柴犬、8歳)も、「期間限定」の鼻水や涙目に悩んでいる。自らも花粉症という飼い主の主婦(36)は、鼻をつまらせて言う。

 「もうすぐ桜だなと思うころには必ず、うちの犬も鼻水を出して涙目になっています。私みたいにマスクができないから可哀想」

 

○つらいのはペットも同じ

 花粉症とは、樹木や草の花粉によって引き起こされるアレルギー性の病気。いまや日本人の10人に1人がかかるともいわれるが、つらいのはペットも同じなのだ。では、犬や猫の場合も、人間とまったく同じ症状なのだろうか。

 動物の皮膚病に詳しい東京農工大学農学部の獣医内科学教室の岩崎利郎教授は、こう話す。

 「草むらに入って、クシャミが出たとか、目がうるうるするということは、犬や猫にももちろんあります。花粉が目に入ったり鼻の粘膜にくっつくというのは、動物の場合は避けようがないですからね」

 岩崎教授によれば、花粉に対する動物のアレルギー反応は、鼻や目の粘膜に表れるほか、とくに犬の場合は「体のかゆみ」など、皮膚に表れる例が多いことが特徴だという。

○花粉飛来時期に動物が多く来院

 「かゆみのために体をかいて、毛が抜けたり、紅斑といって発疹が出たり。うちの病院の内科では、一日に診る20頭の犬のうち約5割は、そうしたアレルギー症状です」

 アレルギー性の病気は「遺伝と環境の両方が原因」だと、岩崎教授は続ける。

 「昔の家は風通しがよく、ほとんどの犬が外で暮らしていました。しかし現代は、気密性の高い室内で犬も暮らすようになった。湿度が高くてイエダニが繁殖するような環境に住むことで、犬のアレルギーも増えたんですね。花粉だけでなく、『ダニとスギ』『ダニとヨモギ』など、原因が混ざり合うことも多いんです」

 一方、アレルギーの遺伝的素因を多く持つ犬種としては、柴犬やシーズー、ゴールデンレトリーバー、ウエストハイランドホワイトテリアが挙げられるという。

 「検査方法は人間と同じ。血液採取による『血清抗体検査』。血液中のIgE(即時型アレルギーの原因となる物質)を検査します。さらに詳しく調べるには、十数種類のアレルゲンを薄めて犬の体内に少量ずつ注入し、反応を見る『皮内検査』をします」

○クシャミ程度から皮膚の炎症まで

 一口に花粉といっても、スギ、イネ科のカモガヤ、キク科のブタクサなど複数ある。

 大阪市に暮らすマメ柴の「コロ太」の場合、春は「クシャミ程度」だが、秋になると目や口の周りに湿疹が出て「カイカイ状態」になる。

 気になった飼い主の中西知美さんは、「アレルギーでは?」と思い、病院でコロ太の血液検査をしてみた。

 「結局、ブタクサ、カモガヤ、ハンノキ、オリーブに対する花粉症でした。症状が出たら薬を塗っています」

 京都府宇治市の林屋動物診療室の林屋早苗副院長は、「花粉飛散時期には多くの動物が来院する」と語る。

 「ペットの現代病ですね。20年前はほとんどありませんでしたから。うちでもよく話を聞いて、IgEと皮内検査をして治療方針を決めます。かゆみに対するステロイドは限定的に治まる場合もありますが、アレルギー性皮膚炎はとっても治りにくいんですよ。猫の場合はステロイドの副作用が少ないですが、犬はコントロールが難しい。当院ではアレルゲンが確定されたら減感作など次の段階の治療に進みます。いずれにしても、原因をつきとめ、諦めないことが肝心です」

 散歩中だけクシャミをする葉菜ちゃんや涙目の元気くんや、薬で治まるコロ太くんは比較的軽い症状だが、なかには原因がわからないまま重症に陥るケースもある。

 東京都府中市の主婦、下向理子さんの飼い犬「海」(ミックス、5歳)は市販のシャンプーで赤くなるなど、もともと皮膚が弱かったが、あるときから外側のももの皮膚の色が黒ずんできた。

 「ほかに症状はないのに、体が変色してきて不思議に思い、検査を受けることにしました」

 かかりつけの獣医師から、家に近い東京農工大附属家畜病院への紹介状をもらい、前出の岩崎教授の診察を受けた。皮内検査をしたところ「猫」や「ハウスダスト」のほか、ブタクサの花粉がアレルゲンとなり、皮膚の炎症が悪化していたことが判明。

 「原因がわかってすっきりしました。フードを替えたり薬を投与して様子を見ましたが、それでもよくならないので、『減感作療法』に踏み切ったんですよ」

 減感作療法とは、花粉症を引き起こす原因となる抗原エキスを、時間をかけて少しずつ注入する治療方法。人間の花粉症治療に使われており、下向さんの夫も、かつてこの療法を受けていた。

 「うちの家族にはなじみ深い療法だったので、『海』が行うことになったときも、抵抗がなかったんですよね。人間も犬も同じなんだなあって」

 最初の1カ月は1日おきに花粉等のエキスを注射。徐々に5日おき、1週間おき、と注射の間隔をあけていった。

 それを約2年続け、黒ずんでいた「海」の皮膚はすっかりよくなったという。トータルで200頭以上の犬に対してこの療法を行っているという岩崎教授はこう説明する。

 「アレルゲンに体を徐々に慣れさせて、アレルギーが起こりにくい体質に変えていく方法なんです。3頭に2頭は『かゆみが減る』という結果を得ていますよ」

 アレルギーの治療は長期間にわたるので、副作用の少ない治療法を選ぶことが大事だと、岩崎教授は念を押す。

○転地療法で治った例も

 一方、転地療法で治ったケースもある。栃木県黒磯市在住の中島正樹さん夫妻の愛犬「真珠」は、かつて都内に住んでいたが、やはりひどい皮膚炎だった。原因は雑草。

 「体をかくので、室内でも首にエリザベスカラーをつけたまま。窓も閉めたまま、ついには獣医さんに『治る方法はひとつ、散歩しないこと』と言われてしまいました」

 悩みながら散歩と通院を繰り返していたが、自然の中での生活に憧れるようになり、やがて夫妻で東京を離れ、黒磯市に移った。

 「車だらけの環境から一変、山中で暮らしていたら、あれほどひどかった犬の皮膚炎が治っちゃった。草木はいっぱいあるというのに。うちのコの場合は排気ガスも大きな原因だったかも。昔はシャンプーすると油っぽい水が流れましたが、今は単に泥汚れ。転地療法が効くといいますが、まさにそのとおりでしたね」

 苦悩の末、ようやく出あったさまざまな解決策。こんなふうに飼い主たちは試行錯誤し、日々、愛犬のアレルギーと向かい合っているわけだ。

○チョロチョロと毛が生えだして

 そんな飼い主への朗報となりそうな、冒頭で紹介したDNAワクチンは、スギ花粉のアレルゲンの「遺伝子」を、「プラスミド」というベクター(遺伝子を運ぶ箱)に組み込み、それを犬のももなどの筋肉に注射するものだ。

 スギ花粉だけにアレルギーの犬で、症状もひどく、薬の治療が困難だったり薬の副作用がある犬に対して、ワクチンを投与していったという。

 「減感作療法ではアレルゲンのエキスそのものを注入しますが、DNAワクチンは体内でアレルゲンが作られていく仕組みです。遺伝子の形で体内に入ることで、短期間の投与で長い効果が得られるのが特徴です」(阪口研究官)

 実際の研究では、スギが飛散する前後の1月から5月までの間、毎月1度ずつワクチンを打ったところ、3度目で効果が表れた犬もいた。

 2001年に打った犬のDNAワクチンが、まる3年たつ今も効いている。

 「その効き目に先生も驚いたし、私もびっくりでした」

 と語るのは、すがるような思いで治療試験を愛犬に受けさせたという高見隆子さん(57)だ。

 「うちの『あすか』は河口湖で拾った雑種ですが、大人になるにつれアレルギーがひどくなったんです。背中は禿げて、白い斑点模様。年がら年じゅうフケだらけ。おなかや両わきもただれて、シーツが血で赤くなることもあり地獄の日々でした。詳しく調べたら、スギの花粉症だった。塗り薬も飲み薬もだめで諦めかけたんですが、こういう新たな療法があると先生に聞いて、お願いしたんです」

 と高見さんは振り返る。

 「カツラのコマーシャルではないけど、おなかやわきのつるっぱげがチョロチョロ生えだして。嬉しくて、毛が生えたーって友達に見せて歩いたんです。花粉症やアトピーは人間に通じる病ですし、私自身も看病しながらずいぶん勉強しましたね。うちにはもう一匹、緑内障で目を摘出したおばあちゃんのシーズーもいますが、大病後も元気に暮らしています。犬とのめぐりあいが運命なら、ぴったりの治療法とめぐりあうのもまた、運命なのかもしれません」

 「DNAワクチン」の人間の花粉症への利用はともかく、ペット用には実用化もそう遠いことではないかもしれない。犬用のDNAワクチンが全国で製品化されるのはまだ数年は先だというが、阪口研究官は前向きに抱負を語っている。

 「手軽に、どこの動物病院でも対応できるワクチンを作りたいと思い、取り組んできました。できるだけ多くの犬と飼い主さんを救いたいですね」(週刊朝日)

(2004/03/19)


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