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医局の窓の向こう側   


履歴書賞罰欄

2007年04月30日

 私たち医療関係者は何かというと履歴書を書く。就職の新規採用の時にはだれでも書くけれども、昇格、新たな出張先追加にもいちいち履歴書を提出させられる。ところで、履歴書には「賞罰」という欄があるけれど、ここに何か書き込む方はいらっしゃいますか。もちろん、アワード(賞)なんか書けるとかっこ良いけど、そんな人はそうたくさんはいませんよね。ほとんどが空欄。でも、賞罰っていうくらいだから、罰を書いても良いわけで……。

イラストイラスト・木村りょうこ

 その日は会議で遅くなった。間もなく午前0時を回る。さすがにこの時間は、オレンジ色の街灯が気持ち良く空いた道を照らしている。CDからはサラ・ヴォーンの気だるい歌声が流れ、疲労感の中に一仕事終えた後の充足感がある。ウ〜ン、ちょっとハードボイルド。(真田先生、学生の頃の走り屋としてのテクニック、まだまだ落ちちゃいないぜっ!)と、ついついアクセルにぐっと力が。え〜え〜、正直に言います。自分に酔ってました。調子に乗って飛ばしました。長距離トラックをヒュイ〜ンと気持ち良く抜いた瞬間、ビカッと赤い光に包まれた。「オービス写真撮られた!!」

 後日、とても丁重な呼び出し状を警察からいただく。どうしよう。車通勤しているので、免停になったら仕事にならない。

 指定された警察署に行くと、しずしずとお写真を見せられた。「あなたに間違いないですね?」丁重な警察官のお言葉。いやぁ、こんなところでテクノロジーの進化を実感するとは。あんなスピードで走っているところを撮ったというのにブレもなく、惚けた顔もナンバープレートもばっちりだ。とても否定できたものじゃない。「あ〜、ばっちりですね」思わず出た言葉に警察官がニヤリと笑う。「間違いありませんね」「はい」と、罪を認める。私は略式裁判になるという(武士の情けじゃ。読者の皆様、何キロオーバーだったかは聞かないで)。それにしても、たくさんの人がいろいろ違反しているのですね。友達とおぼしきおばさん2人連れ。さもありなんのヤンキー風。身なりの良い紳士風。確認された違反以外にもあるはずだ、となぜだか自己申告するまじめなおじさん。

 後日裁判所にて略式裁判。きちんとスーツを着て神妙な顔をして裁判所へ。もう一度、違反をした事実を確認される。それを認めると略式裁判となる。ちなみに、もしここで認めない場合はいわゆる「裁判」を起こすことになるそうで、「ちゃんと弁護士を立ててください」とのこと。もちろん、素直に認めて「略式」にしていただく。裁判というのだから多少なりとも裁判官の前に立つのかと思いきや、略式は書類だけで裁判官が内容を判断するそうで、そのまま待合室で待たされる。少々つまらない。せっかくここまで来たのだ。裁判官から「判決!」とか言ってもらいたかったのに。

 結局、7万円の罰金と免許停止30日。が、しかし。1日講習会に出ると29日分の免許停止に換算され、事実上1日の免停でご勘弁いただけるとのこと。ありがたや、ありがたや。車がないと仕事に支障が出るので助かりました。それにしても略式とはいえ、裁判なんてちょっと緊張しちゃったなぁ。

 午後からは病院へ出て、略式裁判の様子を皆に報告する。「罰金ってことは実刑ですか」部長が聞く。「履歴書の賞罰の欄に書かなくてもいいのかな?」「そうだ! そうだ! 書かなくちゃいけないよ」「前科者?」皆がからかって笑う。「でも実際、賞罰欄に書いてあるのあまり見たことないよね」「真田先生、書いといたら? 他の人がどういう反応するのか知りたいし。正直者として評価が上がるかも」「それって正直者っていうより、変わり者でしょう」

 私の賞罰欄には「スピード違反」の文字が黒々と書き込まれた。「ちょっ、ちょっとやめてよ! H先生」「いい、いいって。出してみようよ。何か問題あったら部長がフォローしてくれるって」

 皆の期待を背負って(?)そのまま提出することになった履歴書。どうなっても知らないぞ。

筆者プロフィール

真田 歩(さなだ・あゆむ)
 医学博士。内科医。比較的大きな街中の公立病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。開業する程の度胸はなく(貯金もなく)、教授に反発するほどの肝はなく、トップ研究者になれる程の頭もない。サイエンスを忘れない心と患者さんの笑顔を糧に、怒濤の日々を犬かきで泳いでいる。
 心優しき同僚の日常を、朝日新聞社刊医療従事者向け月刊誌で暴露中。アサヒ・コムにまで載っちゃって、少し背中に冷たい汗が・・・。

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