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医局の窓の向こう側   


人生の楽しみ

2007年06月11日

 ふと横を向くと、3カ月前から開催されていたダイエット競争目標体重が壁に貼られている。おお! そういえばこんなことやっていたんだっけ。既に私はすっかり途中リタイア。ダイエットしていることすら忘れておりました。目標体重から最も遠い者が皆に焼き肉をごちそうすることになっていたはずなのに、こんなことで良いのか。

イラストイラスト・木村りょうこ

 私がダイエット競争を忘れてしまったのには理由がある。競争開始の頃、ダイエット言い出しっぺのN先生があまりにも劇的におやせになられたからだ。これでは勝ち目がないと私はいきなり戦意喪失したわけ。

 そのころのN先生は、妊娠7カ月目かと見まごう太鼓腹を妊婦のようにいつもさすりながら、ひっ、ひっ、ふ〜、とラマーズ呼吸をしておられた。ウケねらいだと思っていたら、「本気でこの呼吸法が楽だから」とのこと。階段を上れば、息が上がるどころか胸痛すら感じたとおっしゃる。「いかん! マジでこのままではいかん!!」N先生は、ダイエット競争を提案した。

 実のところ部内のダイエット競争はこれが初めてではなく、過去何度か開催されている。いつもN先生が言い出しては、適当なところで終止符が打たれ、最後の「○○(カニだの肉だの牡蠣だの旬の食材)を負けた人のおごりで食べ放題罰ゲームパーティー」だけはきっちり行われていた。結局、なんだかんだと言いながら楽しく「パーティー」を行うための口実、パーティーでより気持ち良く食するための事前ダイエット程度のものかと理解していた。が、しかし。今度だけはN先生、違ったようで、「このままでは本当に死ぬんじゃないかと思った」からダイエットを決意したとのこと。最初の1週間で2キロ落とし、次の1週間で2キロ落とした。少し停滞期があって、トータルで5キロ落とした。さすがに5キロ落とすと見た目が違う。もとがもとだからまだまだ太いけど、それでもすっきりした感じがする。ウエストもベルトの穴二つ分細くなったし、ズボンにタックが寄っている(以前はタックが開いちゃってたものですから)。

「すご〜い! N先生、すごい!! 何やったの? ねぇ何やったの?」興味があるのはダイエットの方法だ。私は思わず前のめりになった。

「間食をやめて、食事を普通にして、運動した」王道なお答え。「間食やめただけでそこまでいくの? 私もがんばろうかな」「間食って言っても僕の場合、ポテトチップス1袋全部とか、アイスクリームのバケツみたいなやつ一つ全部とか、切りのいいところまで食べちゃってたから」「切りのいいところって…。それ、間食とは言わないな」「そう。それから食事はね、カツ丼とラーメンと餃子っていうのを、白小ごはんとラーメンだけにするの」「一応ラーメンライスってところでやめる、と」

 あの体を維持するには、相当のカロリーが投入されているはずだとは思っていたけれども、想像以上でした。食生活をまともなものにするだけで、かなりやせられそうだ。「で、運動は?」「家から病院までの通勤は1時間ウォーキング、それからテニス」「毎日ですか。雨の日も?」「そう。雨の日も。真田先生、やっぱりダイエットの基本は食事制限と運動だよ」。私はうなずいた。その根性がないからみんな「あやしげなダイエット法」に走るんだけど、そこはそれ、さすが医者。やるときゃやるぜ!!

 しかしN先生悲しそうにおっしゃる。「でもさぁ、ダイエットってだめだよ。人生が楽しくない。やっぱりさぁリバウンドしている時が一番楽しいね」。N先生、この競争が終わったらリバウンドすることを御宣言。

「人生は楽しくないとダメだ!」

筆者プロフィール

真田 歩(さなだ・あゆむ)
 医学博士。内科医。比較的大きな街中の公立病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。開業する程の度胸はなく(貯金もなく)、教授に反発するほどの肝はなく、トップ研究者になれる程の頭もない。サイエンスを忘れない心と患者さんの笑顔を糧に、怒濤の日々を犬かきで泳いでいる。
 心優しき同僚の日常を、朝日新聞社刊医療従事者向け月刊誌で暴露中。アサヒ・コムにまで載っちゃって、少し背中に冷たい汗が・・・。

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