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医局の窓の向こう側   


急病人です!! 2

2007年09月25日

 夏休み休暇旅行の飛行機の中で急病人が出た。

イラスト

イラスト:木村りょうこ

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんでしょうか」キャビンアテンダントの声が響く。さっきから呼び出しに応じようかどうしようかずっと迷っている私。だいたいさぁ、ここエコノミークラスなんだよ。こんなところにまで探しに来て、何度も呼び出しがかかるところを見ると、本当に医者がいないんじゃなかろうか。ああ、どうしよう。ワインで酔ってるのに。

 え〜い、ままよ! 酔っぱらった勢いもあって、とうとう私は片手をあげつつ「はい」と言って立ち上がった。

「おお?」静まりかえっていた客席にどよめきが広がる。隣の席の客がびっくりしたような顔で私を見上げている。こういう時って本当にみんな「おお?」って言うんだよね。恥ずかしさと注目を浴びてしまうことに緊張して顔が赤くなる(ワインですでに赤いけど)。すでに私の席の横を後ろに走っていたアテンダントに合図を送ろうとその場で後ろを振り返ると、私の他に2人ほど立ち上がっている。どうやら3人とも迷った挙げ句に、ほぼ同時に立ち上がったらしい。アテンダントが困ったように私たち3人の顔を交互に見比べた。こういう時って不思議ですね。遠く離れた場所からお互いの顔を見ながら、身振り手振りで会話が進む。私たち3人はお互いに「どうぞ、どうそ」と譲り合うような仕草をした。「いやいやいや、私なんか、もう。飲んじゃったんでペケ。どうぞどうぞ貴方が」(人差し指で自分を指し、コップで飲む仕草をして、顔の前で手を左右に振って、最後に両手でバツを出す)なんてサインを送る私。「いやいやいや、そんなことをおっしゃらずに」(という仕草。なんとなく想像してね)のサインが帰ってくる。ちゃんと通じているらしい。誰が対応するんだよ?(立ち上がってしまってもなお、できれば対応したくないのだ)

 それを客全員とアテンダントが見ている。映画のシーンではこういう時、すちゃっとかっこよく出て行くはずなのに、この3人はなにをへこへこ譲り合っているのか。「どなたでも結構ですので。あの、じゃあ、皆様で!」どうも全員微妙にやる気がなさそうなうえ、せっかくつかまえたんだから、ここで逃がしてなるものかと、CAが折衷案(っていうの?)を出した。3人はしぶしぶ席から通路に出た。

 でもまぁ、ひとりで対応するより、複数で対応するというのは結構心強いもので、多少の重症でもなんとかなるかも、という気がしてきた。

「先生、何科でらっしゃいます?」CAに先導されながら通路を歩いていくと、呼び出しに応じた痩せたほうの男性の先生が私に話しかける。そりゃあそうだ。こういう時は専門科が大事。誰がイニシアティブを取るのか決めておかなくっちゃ。「内科です。先生は?」「よかったぁ。僕、歯科なんです。誰もいないなら僕なんかでも、と思って手をあげたんです」。げ。こりゃあ、場合によってはやっぱり私に責任が・・・。もうひとりの男性が続ける。「ああ、よかった。僕、看護士なんです。お手伝いしますんで」げげ! やっぱり私じゃん!

 急病人はビジネスクラスのかっぷくのよい男性客(私ら3人はエコノミー)。リクライニングシートに横になった男性のワイシャツが左肩から真っ赤になっている。何が起こってるんだ?!エコノミー医療チーム(席もエコノミーならレベルもエコノミーっぽい)に一瞬緊張が走る。横に座ったいかにもなお金持ち奥様が心配そうに左こめかみあたりを押さえている。私たち3人を見ると一瞬うれしそうな顔をした。「血、血が止まらないんです! 先生! お願いします!!」彼女はばっちりスーツを着こなした看護師君と上質な白い麻ジャケットの歯医者さんにすがる。Tシャツジーンズの真田は無視。ま、いいけど。なんか外科系っぽいけど、対応せねば。

がんばれエコノミー医療チーム! がんばれ私! 次号へ続く。

筆者プロフィール

真田 歩(さなだ・あゆむ)
 医学博士。内科医。比較的大きな街中の公立病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。開業する程の度胸はなく(貯金もなく)、教授に反発するほどの肝はなく、トップ研究者になれる程の頭もない。サイエンスを忘れない心と患者さんの笑顔を糧に、怒濤の日々を犬かきで泳いでいる。
 心優しき同僚の日常を、朝日新聞社刊医療従事者向け月刊誌で暴露中。アサヒ・コムにまで載っちゃって、少し背中に冷たい汗が・・・。

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