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医局の窓の向こう側   


医療のコンビニ化

2007年12月25日

 夏休みに旅行に出かけた飛行機の中での出来事(8〜11月号掲載、「急病人です!! 1」「」「」「」)を話している。

イラスト

イラスト:木村りょうこ

 「外科部長さぁ、手、挙げないんだよ。横目で見て、処置のための指示はしたみたいだけど、医者だって名乗らないんだ」「頭いいじゃん。さすが外科部長」外科のT先生が言う。「だからスッチーが医者いないかって探し回ったんだよ。そこまで困ってるならって手を挙げてのこのこ出てっちゃった」。机の上に山積みになっているお菓子をばりばりと食べる。この時期はお歳暮がたくさん来るので、お茶菓子がリッチだ。

 「同じ飛行機の中に医者が同乗してた、それで招集に応じてくれたってだけでも、普通、こう、なんていうのかな、患者の気分としては『ありがたい』って感じにならない?でもさ、なんか違うんだよね。当たり前っていうか、それ以上に不満があるっていうか」「じゃ、真田先生は患者の家族が泣いてありがたがってくれたら満足だったわけ?」H先生が言う。

 「またまたそういうことを。もちろん、そんなことを期待していたんじゃないよ。でもさ、こちらだって小さな親切の範疇でやろうとしているんだから、それに対して普通の感謝っていうか、人として心の温かい交流っていうか、そういうの、ない?」「まぁね」「分かった。じゃあ、こう言うよ。安っぽい正義感って言われてもいいよ。我々医者が自分の利益度外視でがんばれるのは、それが医者としての責務だし、自分へのプライドだと思っているからだよ。もちろん、患者さんの喜ぶ顔が見たいから。でも、そんなの家族の喜ぶ顔が見たくて仕事をがんばるお父さんみたいな気持ちじゃないか。それを悪いって言われたら立つ瀬ないよ。それなのに、当たり前って思われてる。いや、要求すらされる。何かが違う」

 「今の医療崩壊の一端でもあるね。今まで医師の献身で支えられていた部分がもう支えきれなくなってる」。T先生が昨夕の当直帯での出来事を話しはじめた。「お腹痛い、ガンかもしれないから検査しろって救急車に乗って来た」「救急車で来るくらい、お腹が痛かったんじゃないの?」「3日前からだって。昼間はお仕事で忙しいから来られないからって。ここの病院は救急車で来た患者を待たせるのかってどなってた」。一同はふ〜っとため息をついた。「さっき院長に呼ばれて事情聴取だよ。あの患者が投書したうえに、電話かけてきたみたい。救急病院として対応がなってない、マスコミに言うってさ。院長びびっちゃって、一体、救急患者を待たせたというのはどういうことだって」

 うんざりして外の喫煙所へ行った。今夜は当直だ。この病院も今年2人の医師が辞めた。大学医局からの補充はない。それどころか、引き揚げの打診が来ている科もあると聞く。年末年始の日当直担当が決まったけれども、あれじゃあお世辞にも「暮れの休み」とは言えなかった。通常の時よりもスタッフが少ない分だけきつくなる。そういうことでも当たり前だと感じて、むしろやりがいさえ感じていたのはいつまでだったんだろう。

 「呼び出しに応じちゃうなんて真田先生はまだ熱いんだよ。下手なことしたら訴えられちゃうからね。もう、医療サービスなんだよ。求められたサービスを、求められただけ提供。カスタマーの満足が評価基準。24時間365日、コンビニなみにサービスを提供する」T先生が言った。

 「外科部長はぎりぎりの選択をうまくこなしたんだよ。部長は、本当は熱い人なんだから。下手にかかわると訴えられる。でも医者として見逃すことができない。だから、医者と名乗らずに指示だけ出してたんだよ。俺なんか絶対知らんぷりするよ」。たばこをもみ消すとT先生は行ってしまった。

 当直者用のピッチが鳴った。さぁて! 行きますかぁ!!

筆者プロフィール

真田 歩(さなだ・あゆむ)
 医学博士。内科医。比較的大きな街中の公立病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。開業する程の度胸はなく(貯金もなく)、教授に反発するほどの肝はなく、トップ研究者になれる程の頭もない。サイエンスを忘れない心と患者さんの笑顔を糧に、怒濤の日々を犬かきで泳いでいる。
 心優しき同僚の日常を、朝日新聞社刊医療従事者向け月刊誌で暴露中。アサヒ・コムにまで載っちゃって、少し背中に冷たい汗が・・・。

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