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医局の窓の向こう側   


指導医講習会3

2008年03月25日

真田歩

 ワークショップは進む。「こんな時指導医としてどうするべきか?」の課題には、グループ内での寸劇が要求された。コントですよ、コント。指導医役、研修医役、患者役、患者の家族役、いじわるな看護師役、優しい看護師役などをグループ内で決めて、全体発表会の時に寸劇披露。タスクや他のグループから「良い指導医とは何か、どうするべきか」にコメントや批判が入る。その価値観はいつも一定だ。「研修医の立場に立って研修医が気持ち良く研修できるように」。手取足取り懇切丁寧にかんで含めて己の時間を研修医に「指導」として捧げることをのみ「是」とする。そりゃそうだよね。指導医講習会だもの。どなる、怒る、叱り飛ばすなど、絶対にだめ。「褒めて育てましょう」「研修医が聞きやすいように優しい雰囲気で、研修医の目を見て答えてあげましょう」どこぞで聞いたことのある「育児法」みたいだ。

イラスト

イラスト:木村りょうこ

 最も良かったと評価されたグループの寸劇は質問に来た研修医にお茶を勧め、ニコニコ微笑みかけながら、じっくりと話を聞き、病態を解説し、その後に一緒に患者を診察に行き、「今度からもがんばってね」と親しげな言葉をかけて元気づけた。指導医には「外来の合間に研修医が質問に来た場合」という設定のはずだったけれども、実際、くそ忙しい外来中でこんな対応ができるんだろうか?

 私達が受けてきた研修とはあまりに違う研修は9時スタート5時帰宅確保。研修時間を超えて研修させないようにしましょう、夜間の呼び出しはやめましょう。我々が受けてきた研修が良いとは思わないけど、それにしてもこのやり方はで本当にまともな医者ができるんだろうか?でも、周りを見渡すと「研修医にすり寄った答え」をすべてのグループが出している。なんなんだこの異様な雰囲気は?みんなどうしちゃったんだ?

 私はひどくいやな事を想い出し始めていた。20年近く前、当時流行した「自己啓発セミナー」というものにはまって職を辞めてしまった後輩医師。私は彼に誘われてそのセミナーに一度行ったことがある。作られた環境で安っぽいゲームをさせることで他人とのコミュニケーションを体験させる。マインドコントロールと言われた手法がそこでは使われていた。ひねくれ者の私はその手法に染まらなかったけれども、素直な彼を救い出すことはできなかった。

今回のワークショップを受けていると常にそのことが想い出される。丸々2日外界から遮断され(情報遮断)、作業と発表の繰り返し(疲労)、初日の夜は「懇親会」と称し、宅配ピザを囲んでの深夜までの飲み会(睡眠不足)。タスクの徹底した監視下におかれ(監視)、「研修医へ優しい指導をする」ことのみを是としたコメントを繰り返し吹き込まれる(価値観の刷り込み)。疲労と睡眠不足と情報遮断されて「まともな自分の価値観がなくなった」ところへ、新たな価値観「研修医にすり寄った研修を行う」を刷り込む。体験型のワークショップは「私自身がそのように感じた」と思わせるには十分だ。すべて意図して作られた思考であるのに。

(あの自己啓発セミナーとそっくりだ)張り付いた笑顔を浮かべながら、執拗にアイコンタクトをとってくるタスクフォース。私は気持悪くなった。

 甘やかした研修を受けさせるのは本当に研修医のためなのだろうか?なんで私はこんな講習を受けているんだろう?日本の医療はこれからどうなるんだろう?妙に盛り上がる全体発表会で私はどんどんFREEZEしていった。

 指導医研修に参加して、気落ちしてしまった私は、すっかり連載終了ということを忘れていた。「医局の窓の向こう側」これにて終了。まだどこかでお会いできますことを。長い間、応援ありがとうございました。

筆者プロフィール

真田 歩(さなだ・あゆむ)
 医学博士。内科医。比較的大きな街中の公立病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。開業する程の度胸はなく(貯金もなく)、教授に反発するほどの肝はなく、トップ研究者になれる程の頭もない。サイエンスを忘れない心と患者さんの笑顔を糧に、怒濤の日々を犬かきで泳いでいる。
 心優しき同僚の日常を、朝日新聞社刊医療従事者向け月刊誌で暴露中。アサヒ・コムにまで載っちゃって、少し背中に冷たい汗が・・・。

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