「この色もいいわね」。似合う色が見つかると患者は笑顔になる=川崎市の「しんゆりリボンズハウス」、福岡亜純撮影
闘病中も、おしゃれを楽しみたい。美しくいたい――。がん患者のこんな思いにこたえようと、NPOや企業が動き出した。元気に見えるメーク法をアドバイスしたり、治療の副作用で脱毛したときに使うかつらのおしゃれを応援したり。「きれいになると、出かけたくなる」。患者の笑顔が広がっている。
川崎市内の駅から歩いて5分ほどのビルにある「しんゆりリボンズハウス」。10月30日、がん患者のためのカラーコーディネート講座があった。「こちらの色のほうが、顔色がよく見えますよ」
カラーコーディネーターの高本眞左子さん(44)が、抗がん剤の治療を受けている女性(50)の顔周りに布をあててアドバイスすると、女性の声が弾んだ。「本当ね。暖かくなったらオレンジ色のワンピースを着るのが楽しみ」
女性は治療の副作用で目の下のくまが気になっていた。「病気だからとあきらめず、きれいにすると前向きになれる。周りの後押しがあるといいですね」
ハウスはがん患者の生活を支援するNPO法人キャンサーリボンズが4月に始めた。気軽に立ち寄れるサロンのような場で、性別やがんの種類にかかわらず、600人以上が訪れた。家賃や運営費は企業や個人の寄付でまかなう。
とりわけ「美」の支援に力を入れる。抗がん剤の副作用で髪や眉が抜け、つめが黒ずむ。顔色が悪い。そのため人と会うのがつらく、自分だけが取り残された気持ちになる――。こうした悩みを抱えがちな患者のために、かつらのかぶり方、くすみを隠すメーク、つめの手入れなどの講習が週に数回ある。
メークの講師をする美容ジャーナリストの山崎多賀子さん(48)は、自らのがん体験から「特に女性は髪形やメークがきまるだけでうきうきする。おしゃれには、はかりしれない力がある」と語る。
同様の「リボンズハウス」は、NPOに賛同した病院にも設けた。鹿児島や千葉、青森などにあり、今年中に約10カ所に増える予定だ。
NPO法人日本ヘアエピテーゼ協会(東京都品川区)は、がん患者がかつらのおしゃれを楽しめる仕組みを整えた。代表理事の河野愛一郎さん(53)の妻は、04年に乳がんの治療をした。「抗がん剤で脱毛する前のヘアスタイルに近づけたい」「脱毛中と、新しい毛髪が生えてきたときとで、サイズが変わる」。悩みを知り合いの美容師に持ちかけ、06年に協会を始めた。
サイズ調整やカットができるかつらを作り、美容師の研修を重ねた。協力する美容師がいるヘアサロンは、関東を中心に約25軒に増えた。店でオリジナルのかつらを約12万円で販売。1年間、好みに合わせて、カットしてもらえる。千人ほどが利用した。
企業も動き出した。資生堂(東京都中央区)は、昨年から日本対がん協会の美容セミナーに協力している。
初めに美容スタッフが患者の悩みに耳を傾ける。抗がん剤の副作用で眉が抜けた場合、もとの形や位置を聞きながら、描き方を丁寧にアドバイス。色つきの下地を使って顔色をよく見せる方法も。このほか、患者会や病院に依頼され、出向くこともある。
がん患者の心のケアをする精神腫瘍医、大西秀樹さん(埼玉医大)は「政府はがん対策推進基本計画で精神的なケアも進めているが、おしゃれの支援は心のケアにも通じる。まず、患者にとって身近な場である病院で、支援を始めてほしい」と提案する。(荒香帆里)