イラスト:阿部昭子
年度末である。
世の中には、「盆暮れ」と言う年内の区切りがあるが、社会人にとってはそれよりもなによりも「年度末」という恐ろしい区切りがある。
年度内に書類を提出せよ!という業務命令がこの時期に山のように来る。もちろん、もっと以前に、「提出期限は○○ですよ」と優しい口調で注意喚起されていたのであるが、そのようなにこやかな注意喚起には「わかりましたぁ」とにこやかにお答えしてそのまま忘却の彼方へ。その後「提出期限○○、厳守」とやや角の立ったものになるわけであるが、「分かっているのに言われるのは不愉快だな」と同程度に角のたった気分で机の上に書類を出しておく。そのような机上に出された書類の上には次の書類が乗せられ、その瞬間、下にあった書類は忘却の彼方へ旅立つ。この上に乗った書類が「ダイレクトメール」による封書だったりした日には、その「どうでもよさ」が前面に(文字通り前面に)押し出され、よもやその下に「締め切りを抱えた大切な書類」が埋もれているとは誰にもわからなくなる。場合によってはいつの間にはダイレクトメールと共に廃棄されている。
その後、明らかに事務方も忘れていたとおぼしき書類が、提出期限が非常にタイトに設定されて送られてくる。
「今週末までにこんなもの出せってかぁ?!事務方も何をやってんだか!患者を診ているこちらは忙しいんだから、ちゃんとしてほしいもんだね」
と、他人の失敗は厳しく糾弾しつつ、恩着せがましく書類を作成し提出などをしているうちに、自分のための大切な書類の締め切りが近づいているのに気がつく。この○○研究費報告の書類を出しておかないとペナルティで来年の研究費が出なくなるぅうう!!
あわてて書類を作成しているうちに、「提出期限は○○ですよ」とずいぶん前に優しい口調で注意喚起してくれていた「あの件」について、担当事務が困惑した様子で迫ってくる。
「提出は今日までですが、先生、できて、ます、よ、ね?」
「はいはいはいはいはい、今日、え?、はい、今日でしたよね。はいはいはい。もちろんできておりますですよ。ただね、提出はね。今患者さん診てて忙しいんで、今日ぉ〜の…、5時まででいいよね?」
「取りに伺います。先生、今どちらですか?」
「いっ、いえいえ、取りに来ていただくなど滅相もない。伺いますから、ええ、こちらから」などと冷や汗で答えつつ、左手で机の上の書類をがさがさとひっくり返したりする。ドザザザザザアァアと雪崩が起き、目的の書類の捜索はさらに困難を極める模様。
もうダメだ、意を決して同級生の院内ピッチ(医療用PHS)に連絡。
「Mく、くん、研究申請の書類出した?」
「はぁ? もうずいぶん前に出したよ。出してないの?」
「白紙書類のテンプレート持ってない?」
「テンプレートなんか持ってないよ。事務に言ってもう一回書類もらえばいいじゃない?」
「それができないからお願いしてるんじゃん!」
「また事務方に『もう書いてあります?』とかなんとか嘘ついたんだろ。ほっんと、学生時代から変わらないやつだな!」
「学生時代から変わらないついでのお願いが。書類書くの手伝って!」
ピッチは無言で切られた。
ぐすん。今半べそで書類を書いております。年度末に書類が多くなるのは、半分以上は自分の責任です。皆様、がんばりましょう。
医学博士。医療崩壊の波が押し寄せる市中病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。大学医局から呼び戻しの声があったものの、現場に留まる事を選んだがために青息吐息の不養生。愉快な仲間と必死に戦う現場での愚痴はおしゃべりすることで息抜きとする養生。医療現場の日常をちょっと変わった角度からお伝えします。