2009年7月15日
イラスト:阿部昭子
「小児科の診療が崩壊寸前なので、内科としてパックアップに入ります」
内科部長のお達しがあった。小児科医の退職があって、残った1人の小児科医にはできるだけ小児科に特化していただいて、内科でもなんとかなりそうな子は内科で診る、ということになった。まずは、中学生くらいから上の子や体格が大きそうな子は全員内科で診ましょう、小さい子でも風邪のようなものなら内科で診るようにしましょう、とのこと。
そう言えば、一般的に15歳以上は内科でもよい、となっているけど、15歳になったら絶対小児科にかかってはいけないわけでなし、慢性疾患なんかある子供は小さい頃から診てもらった小児科の先生に大人になってもずっと診てもらっていることもある。内科で引き取れそうな患者さんは内科で診ていきましょう。そういえば、私の外来は高齢者が多いから、10代の子なんてここ数年診てない。最近の子はむずかしいっていうから気をつけなくっちゃ。
なんて思いながら外来をしていると、さっそく小児科から回ってきた14歳の女の子の名前がカルテにある。中学生。自分が14歳のはるか昔(ついこの間といいたいが)を思い出す。
私は中学生になって小児科を受診した覚えはない。小学生高学年くらいから、風邪など引いても親が小児科受診なんかさせようものなら、子供扱いだと恥ずかしく思ったものだ。待合室のちびっ子といっしょに並んでいるのが居心地が悪かった。今から思えば、そういう自意識過剰なところが子供の証拠だったのかもしれないが、受診程度ですら「小児科」ではなく大人の「内科」にこだわるほどの「大人扱いへの渇望」というものが私自身を子供から大人に変えていったような気がする。優しくしゃべりかけてくれる人当たりのよい小児科の先生に親を交えて診察してもらうより、つっけんどんな内科の先生であっても「親抜き」で話をしたかった。
「今日はどうしましたか?」
私は努めてきちんと14歳女子に話しかけた。正面を向いて、きちんと顔を見て、彼女を大人扱いしようとした。でも彼女は両手をポケットに突っ込んだまま横を向いて居ている。
「ちょっと気持ちが悪いんです」
後ろに立った母親が答えた。
私はもう一度本人にむかって
「具体的に気持ちが悪いってどういう状態ですか? 目が回るような、車酔いのように気持ちが悪いってことですか? 吐きそうな気持ちの悪さってことですか?」
つとめて、彼女本人に向かって話しかけた。
眉間(みけん)に皺(しわ)をよせて横目でこちらをにらみつけると彼女はフンと鼻をならした。ものすごく嫌そうな態度。およそ、こんな態度を人にとられたことはない。
「吐くことはないんですけど、朝気持ちが悪いんです」
母親が答える。
「おなかがすいている時に気持ちが悪いってことですか? 何か食べると楽になるってことはありませんか?」
答えたのは母親だった。
「食欲はあるんですけど…すぐに気持ち悪くなるっていうか…」
私は母親と少女を見比べた。続けて母親がしゃべりだす。少女に向かって私が質問する。少女は答えない。母親が答える。
私は誰と会話をしているのか? 少女本人はひとごとのようにいすに座っている。母親は代弁者どころか、まるで本人になりかわって私と会話する。私はかわいげのない人形=物を間にはさんで、母親=持ち主としゃべっているような感覚。
何よりも不思議だったのは、この状況を本人も母親も異様だとは思っていない様子だった。
「お母さん、この子14歳なんですから。私はこの子とお話ししたい。さぁ、あなた、中学生にもなって自分の症状くらいちゃんと自分で医者に言いなさい。子供じゃないんだから」
私は努めて冷静に少女に向かって話しかけた。
その直後にあらびっくり!続きは次号!!
医学博士。医療崩壊の波が押し寄せる市中病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。大学医局から呼び戻しの声があったものの、現場に留まる事を選んだがために青息吐息の不養生。愉快な仲間と必死に戦う現場での愚痴はおしゃべりすることで息抜きとする養生。医療現場の日常をちょっと変わった角度からお伝えします。