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いまどきの子供2

2009年7月29日

 「お母さん、この子14歳なんですから。私はこの子とお話ししたい。さぁ、あなた、中学生にもなって自分の症状くらいちゃんと自分で医者に言いなさい。子供じゃないんだから」

 14歳の少女に対する質問に母親がすべて答えてしまうので、母親を遮って子供に向かい合う。少女はいやでしょうがないというように眉間(みけん)にしわを寄せて私を斜めからにらみつけた。いわゆる「ガンを飛ばした」。その後いくらかの質問をしたが彼女はふてくされて答えない。

 とうとう遮られていた母親がたまりかねたように再び口を開いた。

 「あの、子供なんですから答えられないですよ」

 私と介助についていたナースのYちゃんは思わず顔を見合わせた。

 「子供だからってどういう事ですか? 私の質問が難しすぎて答えられないってことですか? ポンポン痛いのかなぁ? いつ痛いのかなぁ?って聞けばいいんですか?」

 この時点で真田、かなり頭に来ています(半分以上は少女のぶしつけな態度に対してだけど)。でも、感情は出さず丁重に言い返した。

 「子供なんですから、わからないし答えられないから私が答えているじゃないですか! 子供相手に質問したって答えられないですよ!」

 わわ。母親も逆ギレ。3歳の子供だって「ポンポン痛い」くらい答えるのになぁ。子供、子供ってもう14歳なんだから。

 一向にらちがあかないので、腹部の触診を終えて検査に行っていただく事にした。

 「じゃあ、おしっこの検査と血液検査をさせてくださいね」

 少女と母親は診察室を出て行った。

 ナースのYちゃんが耳打ちする。

 「先生、やっといた方がいいです!」

 「何を?」

 Yちゃんは意味ありげに目配せする。

 「ふーむ。そうかなぁ…」

 私はYちゃんのアドバイスに従い検査室に内線電話して、緊急検査項目を一つ内緒で追加してもらった。同時にその結果を取りにYちゃんに検査室に走ってもらう。

 その間、別の患者をこなしているとYちゃんが大きな目をまん丸にしながら戻ってきた。

 「でたでたでたでたでたでた!」

 妊娠反応陽性。

 私はがっくりと肩を落とした。

 「Yちゃん、本人だけ診察室に呼んでよ」

 扉の向こうでYちゃんとお母さんのやりとりが聞こえてくる。

 「じゃあお嬢さんは先生からお話があるから診察室に入ってくださいね」

 「私もお話を聞きますけど!」。Yちゃんの声に母親が反発する。

 「ああ、お母さんはその前にちょっとこちらでお伺いしたいことがありますのでぇ…。先生からのお話はその後またお時間取りますからぁあ…」

 うまい!さすがこの道○年のベテランナース。実に自然に子供と母親を引き離した。

 部屋に入ってきた少女の顔を見ると私はひどく気まずかった。何もしゃべらない相手にどう説明するのか?

 「あのね、○○さん。生理、順調に来ていたかな? 最後はいつだったかな?」

 少女はものすごくいやそうな顔をする。なんでそんなことを聞くんだ?と明らかに抗議の意味を含めてにらみつけられた。

 「今検査したらあなた、妊娠しているみたいなんだけど、身に覚えある、よ、ね? この気持ち悪いのは、胃腸が悪いんじゃなくてつわりだと思う」

 「うっそ? まじ? やっば!」

 少女の声を初めて聞いた。

 親からはさんざんに子供扱いされていたし、本人もそれを都合よく逆手にとって「子供」の殻の中にいたようだけれども、起こっていることは「大人」な事実。

 「いずれにせよ、これから産婦人科で診てもらわなくちゃいけないんだけど、だからお母さんに話をしなくちゃいけないんだけど、いいかな? 私からお母さんに話をしましょうか? それとも自分でお母さんに言う?」

 伝えている私も半分動揺している。

 しばらく時間がたったが少女はまた答えない。

 「とりあえず、お母さんに話をしないとね。産婦人科のカルテを作らなくちゃいけないから受付もしてもらわなくちゃいけないし。先生から話をしていいかな?」

 「勝手にすれば!!」

 少女が怒ってどなった。その後、貧乏ゆすりをしていらいらして、携帯電話を取りだして何やらメールをし出す。自分でもどうしていいのか、どういう態度をとっていいのかわからないんだと思う。誰にメールをしているのか? 誰に何を相談するのか?

 目前に起こった事態にどう対処していいのかわからずその場で適切な態度も行動がとれないこと、その事実にこそ彼女が「まだ子供」だと感じた。

 体は十分に大人になっても、心の成長が追いついていない。今時の子供…。

筆者プロフィール

真田歩(さなだ・あゆむ)

 医学博士。医療崩壊の波が押し寄せる市中病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。大学医局から呼び戻しの声があったものの、現場に留まる事を選んだがために青息吐息の不養生。愉快な仲間と必死に戦う現場での愚痴はおしゃべりすることで息抜きとする養生。医療現場の日常をちょっと変わった角度からお伝えします。

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