イラスト:伊藤あゆみ
自営業のDさんは現在55歳。パートで家計を助ける53歳の奥さんと共に、2人のお子さんの子育てにがんばってきました。ようやくこの春に下の子どもが大学を卒業するので、生命保険の死亡保障額を見直したいと思っています。
とはいえ、自営業にはまとまった退職金や厚生年金がありません。将来を考えると、子育ての終わりが生命保険の「ゴール」にはならない不安があります。現在加入している保険の内容は、終身部分200万円、定期部分6000万円の定期付終身保険で、主な特約として日額5000円の医療特約を付けています。住宅ローンの支払いはすでに終わり、貯蓄は1500万円。将来の公的な保障が少ないことをふまえながら、保険を見直すなら…。
自営業の方が保険を考えるポイントの一つ目は自分が亡くなった場合に、家族のための保障をどうするか。二つ目は病気やケガなどで働けなくなった時のためにどう備えるか。三つ目は、リタイヤ後の生活費の心配です。
夫がサラリーマンである専業主婦の方は、夫に万一のことがあった場合、一定の要件を満たしていれば夫が受け取れるはずだった厚生年金の4分の3が遺族厚生年金として生涯受け取れます。ところが夫が自営業の妻の場合、遺族としての公的な保障は子供が18歳の3月まで支給される遺族基礎年金と、一定の条件はあるものの寡婦年金、または死亡一時金から選択して受け取るだけで、決して充分とはいえません。Dさんの2人の子供は18歳を過ぎていますから、妻の公的年金は、ご自分が65歳からもらえる老齢基礎年金と、幾分かの寡婦年金または死亡一時金だけになります。老齢基礎年金の支給額は満額で年間約80万円、決して十分とはいえません。
ただし子供が手離れしたことによって、死亡保障額の減額はできます。Dさん一家の場合、貯蓄額も考慮すると必要保障額は2500万円程度だと試算できます。現在の生命保険を見直すなら、終身部分の200万円と定期部分は2300万円にまで減額できるでしょう。
次に、病気やケガで長く働けなくなった場合にどう備えるかですが、これも会社員が加入する健康保険にあるような傷病手当がない自営業には大きな不安材料です。ひとつの対策は、健康上の理由等でどうしても休業する場合の収入を補償する「所得補償保険」という商品です。
所得補償保険は、現在の自分の収入を基準にその何割までなど一定割合で、毎月の補償金額を設定して加入します。病気やケガで働けなくなった場合の保険という意味では医療保険に似ていますが、医療保険が入院をした日数に応じて給付金が支払われるのに対し、所得補償保険は就業不能期間の収入を補償するものです。ですから、自宅で療養した場合でも要件を満たしていれば保険金が支払われるのが一般的です。
ただし、所得補償保険の多くは保険金が支給される期間は1年から2年、保険期間は60〜64歳で満了になります。あくまでも「まだ元気で働けるはずだった年齢の間の備え」として考えるもので、高齢時の収入を補償するものではありません。
自営業には定年がなく、働こうと思えば長く働くことができるのがメリットですが、退職金や遺族年金がないからといって、老後の生活費を養老保険や個人年金保険だけで賄おうとすれば、かなりの保険料がかかってしまいます。保険だけにとらわれず、貯蓄や公的保障とのバランスを考えて、できるだけ早い段階から老後の対策を立てて欲しいと思います。
国民年金にプラスして老後のお金の準備をしたいのであれば、国民年金基金や小規模企業共済への加入も検討してみてください。この二つは、自営業者や個人事業主の方のための公的年金の上乗せや退職金の制度です。国民年金基金は加入時の年齢に応じた掛け金で、加入口数も一定範囲内で自由に選択することができ、老齢基礎年金に上乗せして受給できます。小規模企業共済は、年齢にかかわらず月1000円〜7万円の掛け金を支払うことで、将来退職金を一時金、または年金形式で受け取ることができます。
民間の生命保険料は住民税や所得税の控除に限度額がありますが、国民年金基金や小規模企業共済は、納めた全額が社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除として所得税や住民税の課税対象の所得から差し引かれます。ご商売をされている方は、税制面のメリットからも、検討をしてみてもいいでしょう。

田辺南香(たなべ・みか)さん
ファイナンシャルプランナー。上智大学理工学部卒業後、(株)リクルートに入社。数々の情報誌の社内ITコンサルタントとして活躍後、退職。現在、心豊かな生活を実現するお金のコンシェルジュとして、資産運用、ライフプラン、マネープランに関するコラムの執筆、セミナー講師などを中心に活動中。株式会社プラチナ・コンシェルジュ。