あるとき、大手保険会社の人のこんな発言を目にしました。
リスクに直面した時になってから保険に加入しても、保険金は支払われない。保険は必要性を実感する前に加入しなくては意味がない。『保険に入りたくないけど』と逡巡している人は、いざという時に保険の必要性が最も高い人でもある。つまり、保険という商品は、切迫した必要性を感じていない人に、その必要性を説明することが出発点となるので、保険会社では従業員の『対人能力』がすべてなのです。
そんな内容でした。お客様が「切迫した必要性」を感じていないことが、保険という買い物をためらう原因とされています。私はそこに違和感を覚えました。
今の日本で、幼い子供がいる世帯主が「自分に万が一のことがあった場合、生活費はどうやって確保しよう?」と考えるためには、保険会社の従業員による説得が不可欠でしょうか?独身の人が「国の健康保険の今後には不安がある。『医療保険』の一つも検討しようか?」と思いたつには、やはり、保険会社の従業員からの情報提供が欠かせないでしょうか?そんなことはないはずです。
私は、お客様が保険という「買い物」をする際に逡巡する理由は、「単純に値段が高い」ことに尽きると思っています。「短くても10年、長い場合は30年以上、月々1万円くらいは覚悟することになるらしい」と認識している商品の購入に迷わないほうが不思議です。
保険が毎月せいぜい2〜3000円程度の買い物だったらどうでしょう?全く違う話になりそうです。毎月の掛け金が安い県民共済が、チラシを銀行のATM機の傍らに置いたり、新聞に折り込み広告を入れたりするだけで、加入者数では大手保険会社を上回っている事実もあります。
保険による何がしかの保障の必要性は、既に誰もが認識しているのです。
加えて、お客様は高額商品の購入を「勧誘のプロ」相手に行うことにも抵抗があるのだと思います。それは「来店型」の保険ショップなどが、あらかじめ「無理な勧誘はいたしません」と、インターネット上の広告などでうたっていることからも推察されます。実際「相談に乗ってもらうと、その後の勧誘を断りづらくなる」と考えるお客様もいらっしゃいます。そんな方たちに敬遠されないように、来店型保険ショップは配慮しているのです。
それとは対照的な「勧誘のプロ」による「訪問型」対面販売での契約は、いまでも圧倒的なシェアを誇っています。しかし、契約した内容を自力で説明できるお客様がほぼ皆無であることはどう考えたらいいのでしょう。プロとして商品を十分に説明して販売する保険会社の従業員の「対人能力」が疑われても仕方がありません。
しかも、商品の購入を促した大半の従業員は、数年の間に保険業界を去ることも広く知られています。人材の定着率の低さは、保険料に含まれるコストを高くする原因のひとつと思われます。
大手の方は認めたくないかもしれませんが、私は、お客様の「逡巡」は、旧態然とした「保険販売のあり方」や、それを背景にした「コスト高」に根ざしている、と考えています。

後田亨(うしろだ・とおる)
1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、アパレル・メーカー勤務を経て、日本生命に転職。 10年間、歩合制の営業職員として働く。2005年に独立し、(株)メディカル保険サービス取締役に。 07年に刊行した「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)で、業界を知る立場から生命保険業界が 抱える問題点をあげて、評判に。近著は「“おすすめ”生命保険には入るな!」(ダイヤモンド社)。