現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 医療・健康
  4. 生命保険特集
  5. 保険のカラクリ
  6. 記事

降水確率0.17% 年30万円の「傘」買いますか?

2009年7月2日

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

 「保険金の支払いが増えているのはわかった。でも、契約全体に占める割合はどこにも書いていない。不安をあおるだけの資料に強い不信感を持った」

 先日、ある大手生保の主力商品のプランを提示されたお客様から、このような感想をお聞きしました。資料というのは、「特定状態収入保障特約」に関するものです。

 「特定状態収入保障特約」とは、がん・急性心筋梗塞・脳卒中の3大疾病で所定の身体障害状態になった時、または所定の要介護状態になった際、生存中、一生涯あるいは5年・10年・15年といった一定期間、生活資金が支払われるというものです。

 提示されたプランでは年額180万円になっていましたが、大病に手厚い保障があるのが特徴です。大手生保の営業担当者も、この特約がお客様の役に立つものであることを、保険金支払いが急増している実績に触れながら強調したそうです。

 ただし、お客様のご指摘どおり、プランの根拠となる資料には、この特約の支払件数が増えている事実だけが記載されています。平成16年4月の発売から、19年度までの年度別支払件数と内訳が載っている表があるのですが、平成16年度は40件だったのが、17年には242件、18年は557件、19年では915件という具合です。

 とはいえ、これは驚くべきことではありません。加入時には健康状態に問題がなかった人でも、月日が経つにつれ、罹患率が高い病気にかかるようになるのは、むしろ自然なことだからです。

 また、内訳を見ると「がん」が83.8%に達していることも、「出番が多い特約」であるという印象を与えるかもしれませんが、あくまで、所定の状態になってしまった人の中では「がん」にかかった人が多かった、という話です。

 気になるのは、お客様がおっしゃるとおり「支払件数が契約全体に占める割合」なのです。では、その割合はどれくらいあるのでしょうか。答えは意外に簡単に見つかりました。2008年度ディスクロージャー誌、事業の概況「保険契約業績」のページに、商品別保有契約高がわかる表が掲載されているからです。

 この表によると「特定状態収入保障特約」の契約件数は、平成19年度末で約105万件です。一方、3大疾病等により所定の状態になった人に対する保険金支払いの累計件数は、1754件です。ということは、保険金が支払われた割合は約0.17%と計算できます。

 この特約は単品販売されていないので、死亡保障などとセットで加入するしかありません。保険会社の推奨商品を利用する場合、パンフレットにあるプランでは、35歳男性の保険料は2万円を軽く超えます。「以後の保険料は頂きません!」というコピーで有名な「保険料払込免除特約」も必ずセットしなければならないので、その分も保険料は高くなるのです。

 私は、いつも保険料負担について考える時、たとえ話として「降水確率」のことを思います。実際「がん」は怖いですし、「要介護状態」になると周囲も大変だろうと思います。それでも、降水確率は0.17%という数字が確認できるとき、毎年30万円近いお金がかかる「傘」を買うべきだろうかと思うのです。

筆者プロフィール

後田亨(うしろだ・とおる)

1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、アパレル・メーカー勤務を経て、日本生命に転職。 10年間、歩合制の営業職員として働く。2005年に独立し、(株)メディカル保険サービス取締役に。 07年に刊行した「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)で、業界を知る立場から生命保険業界が 抱える問題点をあげて、評判に。近著は「“おすすめ”生命保険には入るな!」(ダイヤモンド社)。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内