(回答者:北原脳神経外科病院理事 久保俊朗)
耳から入った音や声は鼓膜を振動させ、さらに鼓膜に接続している耳小骨(3つの小さな骨)を動かし内耳に伝わります。内耳の蝸牛には音の振動をキャッチする神経細胞があり、蝸牛神経を経て大脳に達し、音として聞こえます。
音が内耳に伝わるまでの障害による聴力低下を伝音性難聴といいます。
頭を打ったあとに耳の穴に出血して血がたまったり、鼓膜が傷ついたり、中耳内に出血の貯溜などがあれば伝音性難聴がおこります。これらの出血が徐々に吸収され、損傷が治るにつれて聴力が改善します。
頭を強くぶつけると骨折することがあります。中耳上壁をとおる骨折(錐体部縦骨折)の場合は鼓膜損傷や耳小骨の損傷をおこして伝音性難聴になりますが、この場合の障害は軽くて比較的早く改善します。しかし、内耳や蝸牛神経を横切る骨折(錐体部横骨折)は、直接、内耳や神経を損傷するので高度の難聴や顔面神経麻痺がおこります。
【一度難聴をおこすと改善はむずかしい】
骨折はしなくても、頭を打った力が側頭骨の中にある内耳までおよぶと軽度から高度の難聴(内耳振盪)をおこします。この場合、めまいや耳鳴りもともないます。これら内耳より奥の障害による聴力低下を感音性難聴といいますが、内耳や神経そのものが傷ついているので、一度難聴になると改善は困難です。
このケースでは外傷後2か月経過していますので、一般に伝音性の障害は改善しているはずです。現在も聴力低下が続いているのは、感音性難聴が残った状態と考えます。リンデロンなどのステロイド剤やビタミン剤などを使用しますが、これから先の顕著な回復は困難です。
手術での改善が期待できるものは少ないですが、耳小骨のズレによる難聴や内耳から外リンパ液がもれる外リンパ瘻は手術で聴力が改善することがあります。
【嗅覚があれば味覚はもどってくる】
味覚には鼓索神経、大錘体神経、舌咽神経、迷走神経が関与しています。このうち鼓索神経と大錐体神経は顔の筋肉を動かす顔面神経と一緒に走っていて、耳の中をとおるので、側頭骨骨折にともなった顔面神経麻痺に合併して味覚(甘味、酸味、塩味、苦味)の障害を受けることがあります。この場合は顔面神経麻痺の改善にともなってよくなっていきます。
しかし、味覚のもつ豊富な感覚は、唾液、舌の味を感じる細胞、口腔全体で感じとる触覚、深部知覚、嗅覚などの総合感覚から生まれています。かぜや頭部外傷などで嗅覚が障害されても「味覚がおかしくなる」ことはよく知られています。頭をぶつけたあと、においがわからなくなる人はわりと多くみられます。嗅覚が完全消失していなければ、時間経過とともに味覚の改善が期待できます。
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