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紙面から from Asahi Shimbun

【市民の英知、今こそ 国際平和シンポジウム「核兵器廃絶への道〜2010年ナガサキ」】 (2010年 8月12日 朝刊)

 「核なき世界」へ機運が高まる今、人々の英知を集めよう――。国際平和シンポジウム「核兵器廃絶への道〜2010年ナガサキ」(長崎市、長崎平和推進協会、朝日新聞社主催、広島市、広島平和文化センター、長崎文化放送、広島ホームテレビ後援)が7日、長崎市の長崎ブリックホール国際会議場で開かれた。5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議で核兵器禁止条約にも言及した最終文書が採択される一方で、核拡散の懸念や核抑止力への依存はなお残る。国際社会はどう行動すべきか。市民に何ができるのか。国内外の専門家らから多様な視点で提言があり、活発な議論が交わされた。


 ◆パネリスト冒頭発言
 ◇潜在的な保有国、脅威 米スタンフォード大教授、スコット・セーガン氏
 核不拡散条約(NPT)全加盟国は軍縮交渉を誠実に進める合意をしているが、核廃絶への熱意は四つの認識に支えられている。
 まず、世界が直面する最大の脅威はテロリストや北朝鮮、イラン、潜在的な核保有国だという点。二つ目は全保有国が軍縮に誠実に取り組む姿勢が明白になれば、核拡散の恐れは減るという認識。三つ目に、核軍縮には日本など非保有国の積極的支援が必要ということ。最後に、世界的な核軍縮はすぐには達成できないこと。核のない世界では、「核でズルをする国は見破られるし、許されもしない」という確信を深めることが非常に重要になる。
 「グローバル・ゼロ(地球上からの核廃絶)」は正しい目標であり、熱意をもって努力すべき時は、まさに今だ。

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 専門は安全保障や核政策で軍縮や不拡散の現状に詳しい。08〜09年には長期的な視点で米国外交を検討して議会や政権に助言する委員会の専門アドバイザーを務めた。

 ◇再処理施設、多国間で 内閣府原子力委員会委員長代理・鈴木達治郎氏
 原子力の平和利用=キーワード=拡大と核拡散防止をどう両立するか。3点ほど話したい。
 第一に、原子力発電を再評価して推進する「原子力ルネサンス」が、エネルギー安定供給や温暖化問題で期待を集めている。発電所建設だけではリスクはそれほど大きくない。最も脅威であるのは兵器に転用可能な核物質。高濃縮ウランとプルトニウム、その生産施設・技術の拡散だ。
 2点目は、その現状だ。平和利用の核燃料サイクル、特に再処理によって回収されるプルトニウムが増加しており、楽観を許さない。
 では、どういう対策が必要か。検証や技術などによる対策を進める。それから国際的な取り組みも必要。濃縮・再処理施設を一国だけで占有せず、多国間で管理しようということだ。

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 すずき・たつじろう 東大客員教授。原子力政策やエネルギー環境政策、科学技術政策に詳しい。核廃絶をめざす科学者の集まり「パグウォッシュ会議」前評議員。元電力中央研究所研究参事。

 ◇非核地帯、実現めざす 内閣府副大臣・平岡秀夫氏
 私は山口県出身で、父は広島に原爆が落とされた時に爆心地から約5キロ離れた場所にいて、被爆者を助ける中で被爆した。小学校の遠足で広島の原爆資料館に行き、展示物や写真を見てショックを受けた。しかし、子どもの頃は父から話を聞いたことがなく、被爆者だと知らなかった。父は世の中の目を気にしていたのだろう。
 原爆は、その時だけでなく、その後も長い間苦しめ、2世、3世が不安に思う状況をつくる。悪魔の兵器を、私たちの時代からなくす努力をする義務を負っている。
 2年前の8月に民主党の核軍縮促進議員連盟が長崎で発表した、北東アジア非核兵器地帯=キーワード=条約を実現したい。韓国の国会議員とも協力し、国際会議でも説明をしてきた。市民の皆さんの支援で大きなうねりにしたい。

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 ひらおか・ひでお 大蔵省に入り国税庁課長などを経て、00年に衆院山口2区で初当選。民主党のリベラル派として発言を続ける。党核軍縮促進議員連盟の事務局長を務める。6月から現職。

 ◇人間の視点、長崎から 長崎市長・田上富久氏
 5日に潘基文(パンギムン)・国連事務総長が長崎を訪れた。昨年の平和宣言で各国指導者に長崎に来てくださいと申し上げたのは、被爆地を見て、被爆者と話し、感じたことを話してほしいからだ。被爆地からの発信で核兵器は不要とのメッセージは強くなる。メッセージを発することは、被爆地とリーダーたちとの共同作業だ。
 長崎の使命の一つは、技術論や各国の力関係の話になりがちな核兵器の議論に「人間の視点」を持ち込むこと。被爆者が体験を語るとき、伝わる力は大きい。
 二つ目は「人類の視点」。加害者や被害者を超えた人類の一員として、これを二度と体験させないという視点を持ち込むことが大事な役割だ。もう一つは「素直な視点」。先入観を外した見方を持ち込むのも大事な役目と思う。

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 たうえ・とみひさ 長崎市職員として観光振興に携わり、07年、前市長の射殺事件を受けて市長選に立候補し、初当選した。自治体間の国際的な連帯で核廃絶を目指す平和市長会議の副会長。

 ◆被爆電車の悲話再現 姉妹描く朗読劇、初演
 シンポジウムの冒頭では、長崎市の劇団TABIHAKUによる朗読劇「チンチン電車の詩(うた)」が上演された=写真、長沢幹城撮影。この日が初演で、長崎市江里町の和田耕一さん(83)が、65年前に長崎市の路面電車の運転士をしていた当時の記憶と取材をもとに原案を書いた。
 路面電車の車掌として働いていた13歳と12歳の姉妹、タツ子とハル子。2人は宮崎の親元を離れ、互いに助け合いながら厳しい仕事に耐えていた。1945年8月9日午前11時2分、閃光(せんこう)が長崎の街を襲った。原爆投下。妹は爆心地の近くにいた。「どんな姿でもよか、生きてさえいてくれたら」。自身も重傷を負いながら妹の無事を祈る姉。だが、願いはかなわなかった。
 声と動きで表現する20分間のシンプルな舞台。初演を見た和田さんは「65年前の当時の様子を思い出した。芸術の訴える力を感じました」と語った。


 ◆キーワード
 <原子力の平和利用> 発電や放射線治療など、軍事以外の目的で原子力を活用すること。核不拡散条約は非核保有国に核兵器の保有を禁じる一方、原子力の平和利用を認めている。非核保有国は国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れる義務がある。IAEAは「核の番人」と呼ばれ、非核保有国の原子力施設に立ち入り、核物質の管理結果をチェックして軍事転用されないようにする。現在151カ国が加盟している。

 <北東アジア非核兵器地帯構想>
 多国間条約によって核兵器の開発や製造、保有などを相互に禁止した地域を非核兵器地帯と呼び、ラテンアメリカやアフリカなどで条約が結ばれている。締結国は核保有国から、核による脅しや攻撃をしない約束を取りつける。これを北東アジアでも実現しようとNGOや研究者らが提唱している。日本に加えて朝鮮半島を非核化し、米中ロが核攻撃しないことを誓約させる構想が中心。

 ●先制不使用、糸口に セーガン氏
 大軒 ここ1、2年で核不拡散へ進んだが、状況は喜んでばかりもいられない。
 セーガン 現在の緊張は、北朝鮮をどうするかということにある。もし北朝鮮が米国や韓国、日本に生物化学兵器を使った場合、どう対応したらよいか。米国の政策はあいまいで、核兵器を使う可能性を残している。この点について、日本も米国も明確なスタンスを示していない。だが、どんな状況下でも、最初に核攻撃することは絶対にあってはならない。核の先制不使用が米国の核政策を変え、「核のない世界」を実現する最初のステップになる。
 大軒 菅直人首相が広島の式典で「核の傘」にふれた。「核の傘」は生物化学兵器での攻撃を抑止するためか。核攻撃だけを抑止するためか。
 平岡 核兵器はどういう役割を担うのか、日本でも世界でも統一した考えができていない。オバマ米大統領が「核なき世界」を目指すと言ったとき、米国の核態勢が大きな議論になった。私たち日本の国会議員200人以上は、大統領に「核兵器は核兵器に対してだけ使う政策をとってほしい」と書簡を出した。

 ●「傘」頼らず安全保障 平岡氏
 大軒 北東アジア非核兵器地帯構想を話してほしい。
 平岡 北朝鮮との関係では6者協議が大事で、進展を期待している。ただ、北朝鮮の立場で考えると「日本や韓国は米国の核抑止力に守られながら、北朝鮮はどうやって自分たちを守っていけばいいのか」という問題提起があり得る。構想では、日本と韓国、北朝鮮は非核三原則のようなものを自分たちで守り、周辺の核保有国である米国、中国、ロシアはその地域で核攻撃をしないことを約束する。そういう形で条約をつくっていきたい。
 田上 長崎の市民として核兵器の話をするとき、「自分たちは『核の傘』の下にいながら、被害者のことだけを言うのは、違うのではないか」と指摘される。被爆者の多くにとって、それがジレンマの一つだった。そこを超える仕組みとして、北東アジアの非核兵器地帯の検討を進めてほしいと願っている。
 大軒 「核兵器の役割は対核兵器だけに限る」となると、通常兵器に対しては通常兵器で守ることになる。「核があるから」と安心していた人々にとっては危険度が高まる、という議論がある。
 平岡 人類はそれほど愚かではなくなっているのではないか。使ってはいけない兵器というのは、十分にわかっているはずだ。テロや事故では致命的な被害が発生する。核に頼らない安全保障体制を築く方向に行くべきだ。
 セーガン 核抑止力に頼ることは危険だ。過去にうまくいったからといって、頻繁に頼るべきではない。現実には多くの国が核兵器を得ようとしている。イランや北朝鮮への制裁は十分には厳しくなかった。核のない世界をめざすなら、抜けがけする国を厳しく罰しなくてはいけない。制裁のある世界は理想的ではないが、核兵器が安全保障の要だと信じられている今日の世界よりは、ましだ。
 田上 核兵器が世界に危険を広げていることを、私たちはもっと言わねばならない。市民レベルで市民の感覚での声を伝える仲間をつくる必要がある。それが包囲網として政府を動かす力になる。

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