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紙面から from Asahi Shimbun

【(核なき世界へ)被爆国からのメッセージ:5 詩人のアーサー・ビナードさん】 (2010年11月8日 朝刊)

 オバマ米大統領はいずれ臨界前核実験をやるだろうと思っていました。腹立たしいが、期待外れとはいえない。彼のプラハ演説は日本では高く評価され、その残像が色眼鏡になってしまいました。でも、ノーベル平和賞授賞式では、戦争を正当化するような演説でした。米国の大統領は、二枚舌どころか、10枚でも20枚でも舌を使い分けています。
 核実験は中間選挙前の軍産複合体に向けた明確なメッセージだった。核兵器でぼろもうけしてきた業界の利権は、今後も脅かされませんよ、と。オバマ氏が「核なき世界」を目指しているなんて、幻想に過ぎませんね。

 オバマ氏が広島を訪れても、何かが変わるわけじゃありません。賞味期限がすぐくるような政治家と、被爆地はスケールも時間軸も違うのだから、招待するほどの価値はない。「非核実現への政策を持って訪問しないとオレの立場がやばい」と思わせる状況を、みんなで作らなければなりません。
 米国で僕が学んだ原爆投下は、人命を救うべく戦争に終止符を打つためだった。来日して、それが作り話だと知った。広島と長崎を自分の足で歩けば、人間と原爆がどうつながるか初めてわかってきます。生活抜きに戦争の歴史を語るのは、ただの歪曲(わいきょく)です。

 米国の画家ベン・シャーンは第五福竜丸事件を題材に連作を描きましたが、事件は米国内でほとんど知られていません。僕自身、真相を探ることで、核兵器の存在が地球の生命にどう影響するか見えてきました。核抑止論はナンセンス。シャーンの力強い絵と綱引きして文章を書き、(2006年に)「ここが家だ」という絵本になりました。
 未来を悲観する必要はありません。人間とはおもしろいやつで、たまに本物の偉業を成し遂げることもある。オバマ氏も見かけ倒しの「チェンジ!」ではなく、命がけでやれば方向転換できるはずです。そもそも人間が作ったモノを人間がなくすのだから、やる気があれば可能でしょう。海面上昇など人類が直面しているいくつもの地球規模の危機のなかでは、一番成功する確率が高いと思います。(聞き手・湯地正裕)

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 アーサー・ビナード 米ミシガン州出身。43歳。90年に来日、日本語の詩作を始める。詩集「釣り上げては」で中原中也賞、「ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸」で日本絵本賞を受賞。

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