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紙面から from Asahi Shimbun

【2011年の夏】
国際平和シンポジウム「核兵器廃絶への道〜いま、市民社会から何を問いかけるか」1 (2011年8月6日 朝刊)

 「核兵器廃絶への道〜いま、市民社会から何を問いかけるか」をテーマとした国際平和シンポジウムが7月31日、広島市中区の広島国際会議場で開かれた。東京電力福島第一原発の事故を受け、パネル討論では核兵器だけでなく原発の是非まで幅広く議論。特別ゲストのオノ・ヨーコさんのスピーチや、招かれた被爆者の女性2人が核廃絶への思いを語る場面もあった。
 広島市、広島平和文化センター、朝日新聞社が主催。長崎市、長崎平和推進協会、広島ホームテレビ、長崎文化放送が後援した。

 〈パネリスト冒頭発言〉
 ◆核抜きの安全、訴えよう     カーネギー国際平和財団副理事長、ジョージ・パーコビッチさん(米)
 奴隷制の「廃止」と核兵器の「廃絶」には、共通点があるのではないか。英語では同じabolitionという単語が使われる。また、二つの運動には非常に道徳的な側面もある。
 リンカーンが奴隷制廃止を考えた時、多くの白人は解放された黒人との共存を望まなかった。これは、核をめぐる現在の状況に似ている。米ロ仏などの指導者は、核兵器を全廃すれば国民を他国から守れるのか、と危惧している。
 段階的な奴隷解放は受け入れられず、南北戦争の死傷者は100万人に上った。核廃絶でも、変化を恐れる人たちが譲歩を拒んでいる。廃止を目指し、広島、長崎のつらい体験を世界に伝えていくべきだ。
 核兵器を使わずとも「安全」は達成できる、という国際的な信頼関係を構築しなければならない。広島、長崎の皆さんの訴えは、他にない信頼性を持つ。

     *

 カーネギー国際平和財団副理事長。米国の核政策に詳しく、米外交問題評議会タスクフォース委員、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)諮問委員を務める。

 ◆脆弱な原発、兵器と同じ     核兵器廃絶国際キャンペーン代表、ティルマン・ラフさん(豪)
 福島で起きた壊滅的な人道上の悲劇は、起こるべくして起こった。原子力の利用を減らしていかなければ、これが最後の原発事故にはならないだろう。
 原発には、地震や津波による電源や冷却システムの損失が事故につながる脆弱(ぜいじゃく)性がある。全ての原子炉や使用済み核燃料プールは、「事前配備された巨大な放射能を出す兵器」。原発であれ核爆弾であれ、健康に与える被害は同じだ。
 世界のどこかで核兵器が使われれば、どれだけ遠くにいても巻き込まれる。この人類共通の敵を排し、法で禁止するための力は、神のひざの上にではなく、私たちの手の中にある。市民社会から、政府や政治家に強力に主張を届けていこう。インドの詩人は「私たちがこの世界を愛さない限り、私たちは生きていけない」と言った。核兵器の廃絶は、重要な「愛」の行為なのだ。

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 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)代表。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)東南アジア・太平洋副代表も務め、核兵器が公衆衛生面にもたらす影響などを研究する。

 ◆核の4政策、今こそ議論     広島市立大広島平和研究所副所長・水本和実さん
 「非核三原則」「米国の核の傘」「核エネルギーの平和利用の推進」「核軍縮外交」という、核に関する日本の四つの政策の問題点や課題を指摘したい。
 非核三原則の背景には、被爆体験に基づく「反核」の意識があるが、具体的な核兵器の危険性を根拠にするべきだ。三原則の法制化の検討も必要だ。
 核の傘からの離脱を目指すのなら、日本が直面している脅威に対処する際、米国の核抑止力は不要だということを示せるかどうかが問われている。広島は軍事利用、福島は平和利用における核エネルギーの危険性を経験した。平和利用であろうと、核エネルギーは扱い方次第で、人類を制御不可能な危険にさらす。一方、核軍縮外交は、他の政策との矛盾が足かせとなっている。
 今、四つの政策の方向性を一つにするための国民的な議論が必要だ。

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 広島市立大広島平和研究所副所長(教授)。日本政府の核軍縮政策に詳しく、日本軍縮学会理事を務める。朝日新聞ロサンゼルス支局長などを経て、1998年から同研究所へ。

 ◆「怖いことは怖い」声を     中央大総合政策学部教授・目加田説子(もとこ)さん
 対人地雷は手のひらに載ってしまう小さなもの。安くて300円ぐらいで手に入る。この兵器によって兵士ではなく、子どもや武器を持たない人が犠牲になっている。紛争解決後も悲劇を生み、禁止を求める声は1980年代からあった。
 対人地雷禁止という新しい価値は、市民が社会に打ち出して定着させた。NGOと、その主張に共鳴するカナダ政府などが協力して条約をつくった。政府とNGOが協働する時代の幕開けだった。冷戦が終結したことも、一つのポイントだったと思う。
 我々は「3・11」を経験し、何が現実かという視点が大きく変わった。脱原発も「冷静に議論しよう」と言われるが、「怖いことは怖い」と声を上げないといけない。国民としてメッセージを発信し、日本政府には核軍縮を実践するようにプレッシャーをかけていかなければならない。

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 中央大総合政策学部教授。地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)理事、日本軍縮学会理事を務める。NPOを研究、著書に「地雷なき地球へ」「地球市民社会の最前線」など。

 <コーディネーター>三浦俊章・朝日新聞論説委員
 主に政治・外交報道に携わり、ワシントン特派員時代に同時多発テロを取材。米ハーバード大研究員を経て、テレビ朝日「報道ステーション」のコメンテーターなども務める。

 ◇イマジン、優しく響く BunKenさん
 シンポジウムのオープニングでは、ギタリストのBunKen(長野文憲)さんが登場。自身が作曲した「オラシオン〜祈り」と、ギターソロにアレンジした「イマジン」の2曲を奏でた=写真。ホールは優しい音色に満たされ、訪れた人たちは静かに聴き入った。
 BunKenさんは、ニューヨークのカーネギーホールや国連本部での演奏経験がある。長崎県生まれで広島県に在住。平和を求める集会での演奏も多く、広島での吉永小百合さんによる原爆詩の朗読で伴奏を務めたことも。6日には、福島県で復興への祈りを込めたコンサートを開く。

 ●軍事と平和利用、表裏一体 福島が示す深刻な汚染
 三浦 福島第一原発の事故は、核軍縮に対し、どんな意味を持つだろうか。
 パーコビッチ 原発での事故を、核兵器と結びつけたくないという傾向が日本以外の国にはある。核戦争になれば恐怖は何倍にもなり、二つを結びつけることはできないと。だが、いずれ結びつける動きは出てくるだろう。福島で食料が汚染されたように、環境、人間にもたらす結果を考えなければいけない。
 水本 軍事利用と平和利用は表裏一体であると、福島から学ばないといけない。日本は54の(商業用の)原発を抱える。ウラン燃料を作り、使用済み核燃料を保管するなどのすべてのプロセスでヒューマンエラーはありえるし、もし実際に誤ると危険性は膨大だ。システム全体の危険性を知らなければならない。
 放射能による内部被曝(ひばく)は広島での研究の成果だ。同時に、広島で内部被曝の問題が見過ごされてきたことは再度強く主張していい。
 三浦 放射性廃棄物=キーワード=についてはどうか。
 ラフ 核の時代になって66年が過ぎたが、どの国にもうまく機能する処理方法がない。貯蔵システムが安全かどうかは何百、何千年たつまで分からない。廃棄物も核の拡散につながる。将来の世代に危険を管理することを押しつけるのは非道徳的。科学的な努力で対応すべきだ。
 三浦 核廃絶運動は原子力そのものの廃絶に進んでいくべきか。
 目加田 その通りだ。今まで軍事利用は非常に危険で、民生利用は安全と言われてきた。だが福島の事故でその論理が破綻(はたん)した。核軍縮を外交の柱にする以上、民生利用をやめる明確なメッセージを国際社会に打ち出すべきだ。核燃料サイクルもすぐやめると主張した方がいい。
 三浦 福島の事故はどんな視点でとらえるべきか。
 水本 エネルギー問題としての議論が盛んだが、エネルギーを多く使えば使うほど幸せになる、という生き方を変えられるのかどうか、私たちは問われている。

 ◆キーワード
 <放射性廃棄物>
 原発や医療機関などから出る放射性物質を含む廃棄物。原発から出た使用済み燃料を再処理し、まだ使えるウランやプルトニウムを回収した後に残る廃液は「高レベル放射性廃棄物」、他は「低レベル」に分類される。「高レベル」の放射能は非常に強く、数万年以上隔離する必要がある。国はガラス原料と一緒に固め、地下深くに埋める方針だが、処分場のめどは立っていない。

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