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【2012年の夏】
被爆2世、広がるつながり 継承の役割・援護要求…方向探る 各地で組織化
(2012年8月4日 夕刊)
原爆投下から67年。被爆者を親に持つ人たちのネットワークづくりが活発化している。福島原発事故で放射線被害への関心が高まる中、高齢化した親の体験を語り継ぎ、「当事者」の一員として声を上げようという機運が高まっている。
「被爆2世への援護の充実を行政に求め、親の被爆体験を継承することを活動の目的に据えたい」。京都の被爆者らでつくる京都原水爆被災者懇談会のメンバー、佐々本好信さん(54)はそう語る。「2世の会」準備委員会を7月に開き、8人が参加。9月にも正式に発足する。
7月下旬に佐賀県内であった「九州・四国地区被爆二世交流会」には約30人が集まった。福島原発事故後に始まり、5回目。2世としての不安や、父や母への思いを語り、活動の可能性について議論してきた。
福岡、鹿児島、山口など各県に会があり、交流会が始まったことで、昨年に佐賀、5月には長崎で新たに会ができた。熊本市の青木栄さん(51)は、11月に熊本で立ち上げる。「10年後には1世がいなくなる。私たちが担わないと」
東京でも4月、「被爆二世交流会」が立ち上がった。1970年代に2世の会ができたが、当時はまだ課題を見つけられず自然消滅。経緯を知る被爆者団体メンバーが背中を押した。事務局を担う吉田みちおさん(54)は、「皆それぞれ内に抱えた思いがある。集まる意味を時間をかけて議論し、方向性を決めたい」。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)も、代表理事会の中に「二世委員会」を作り、秋までに初会合を開く予定だ。
2世への援護をめぐっては、神奈川県が73年から通称「2世手帳」といわれる健康診断受診証を交付。現時点で、健康に影響があるとのデータはないが、「健康不安の軽減をはかる」(保健福祉部生活援護課)ことが目的で、健診や一定条件での医療費助成をする。だが、こうした例は、東京都や大阪府吹田、摂津両市などごくわずか。
全国の被爆者数は、81年の37万2264人をピークに減り続け、3月末で21万830人。平均年齢は79歳だ。一方、被爆2世についての統計はない。被爆者の高齢化が進む中、体験をどう継承していくかも課題となっている。
日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長は、「どういう運動体にするかは次の世代が考えること。核兵器廃絶という大きな課題を達成するためにも、この先数年は子ども世代と手を取り、一緒に走っていきたい」と話す。
(宮崎園子、木村司)