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紙面から from Asahi Shimbun

【2013年の夏】
(核といのちを考える 孤立する日本:下) たまり続けるプルトニウム (2013年8月4日 朝刊)

 「人類滅亡まで5分」。米国の科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」は1月、科学者らが核戦争の危機を訴える「終末時計」について、福島第一原発の事故などを理由に「5分」とした昨年に続き、今年も同じ刻限にすると発表した。

 「2013年のうちに米国は日本に六ケ所の稼働を諦めさせるべきだ」。同誌は「5分」とした理由を述べたオバマ・米大統領宛ての公開書簡で提言した。

 六ケ所とは、青森県六ケ所村にある使用済み核燃料の再処理施設。近く始まる検査が済めば、本格稼働させる準備が進む。

 なぜ、使用済み燃料の再処理が核戦争の危機につながるのか。再処理で、燃料にも核兵器にも転用が可能なプルトニウムが抽出できるからだ。日本は英仏両国に再処理を委託し、すでに約44トンのプルトニウムをためこんでいる。  核不拡散条約(NPT)のもとで、日本は核兵器の主要保有5カ国を除けば唯一、核燃料の再処理やリサイクルを進める「核燃料サイクル」の技術開発を認められてきた。核利用を監視する国際原子力機関(IAEA)に全面協力し、核兵器を持たずに平和利用を進める日本は「NPTの優等生」と言われてきた。

 だが、福島の事故後、原発50基の大半が運転を停止。もう一つのプルトニウムの使い道となる高速増殖炉も実用化のめどが立たないまま再処理に突き進む日本には今、国内外から冷たい視線が向けられている。

 ■「潜在的な核抑止力」
 4月10日、米ワシントン。トーマス・カントリーマン国務次官補は、原子力政策を巡り意見を交わした内閣府原子力委員会の鈴木達治郎委員長代理にこう警告した。「日本が不拡散分野で果たしてきた役割、国際社会の評価に大きな傷がつく可能性もある」

 日本側は保有分や再処理で発生するプルトニウムを原発の燃料として使うと説明。しかし米側は六ケ所での再処理推進が北朝鮮やイランの核開発に口実を与えかねないと懸念していた。

 核問題アナリストの田窪雅文氏は「米国が生産した軍事用プルトニウムは約100トン。消費するあてもなく再処理を進めれば、これに匹敵する量を日本が持つことになる」と指摘する。

 日本は被爆国として核軍備には手を出さずにきた。ただ、原子力技術が安全保障上の「潜在的な核抑止力」を担うとの主張は繰り返されてきた。昨秋から自民党幹事長を務める石破茂衆院議員は11年10月、雑誌のインタビューで原発を維持する意義をこう述べた。「核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』になっている」

 ■核開発「海外が懸念」
 民主党政権が「原発ゼロ」を模索していた11年11月。脱原発の是非を議論する経済産業省の専門家会合で、原子力研究の重鎮、山地憲治・東京大学名誉教授は原子力開発の維持を主張した。「核兵器を保有せずに抑止力を持つこと。(中略)これはやはり核の時代において国際的に重要ではないでしょうか」

 平和利用を担ってきた科学者として「抑止力」を口にした理由について、山地氏は取材に「核は本質的に軍事的な側面を備えている。核武装の能力があると周辺諸国から認められることは、安全保障上の意味がある」と語った。

 反原発の立場で経産省の会合に出席した伴英幸・NPO法人原子力資料情報室共同代表は指摘する。「存亡の危機に直面して、原子力ムラの本音が出たと感じた。日本がいつか核開発に乗り出すのでは、という海外の懸念もそこにある」

 1988年に改定発効した日米原子力協定で、日本は米議会から毎年了承を得ずに核燃料の再処理ができるようになった。2018年に期限切れを迎えるが、政府や電力業界関係者の中にも、日本が保有するプルトニウムを減らす具体策を示せなければ、協定の維持は難しいとの見方がある。

 80年代の日米原子力交渉に携わった元外交官の遠藤哲也氏は「米国は同盟国の韓国には再処理を認めておらず、大量のプルトニウムを抱えた日本に従来通りの再処理を認めるかどうか。日本側がきちんと説明できなければ、厳しい交渉になるだろう」と語る。

 (永井靖二)

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