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紙面から from Asahi Shimbun

【2013年の夏】
(インタビュー 核といのちを考える) 元米国務長官の核不要論 コリン・パウエルさん (2013年7月11日 朝刊)

写真 「我々が核兵器を削減しているという例を示すことが、いつか核兵器がゼロになる時代がくるかもしれないと世界各国に思わせることになる」=ランハム裕子撮影

コリン・パウエルさん

 北朝鮮が核兵器や長距離ミサイルの開発を進め、中国が尖閣諸島沖で領海侵入を繰り返す。安全保障をめぐる環境が厳しさを増す中、日本国内の一部には核武装への積極論もある。だが、核は本当に抑止力として役に立つのか。米軍制服組トップと国務長官を務めた後、近年、核兵器不要論を説くコリン・パウエル氏に聞いた。

 ――なぜ核兵器が不必要だと思うのでしょうか。

 「極めてむごい兵器だからだ。まともなリーダーならば、核兵器を使用するという最後の一線を踏み越えたいとは決して思わない。使わないのであれば、基本的には無用だ」

 「私は軍事的な意味で無用だと言っている。政治的に見れば、核には抑止力があり、北朝鮮は核兵器を持つことで自国の力や価値が増すと考えている。だからこそ私は核軍縮を提唱している。核兵器をすぐにゼロにするのは難しい。しかし、核廃絶という目標を持つのは良いことだ」

 「各国は協力して核兵器をコントロールし封じ込めることが重要だ。テロリストが触手を伸ばし、初歩的な、あるいは本格的な核兵器を開発しかねない。これは、今や現実的な脅威だ」

 ――北朝鮮に対して、米国は、通常兵器だけで抑止力があるのでしょうか。

 「私の個人的な見方だが、通常兵力は強力であり、核兵器を使わなければならないことはない。もし北朝鮮が核兵器を使ったり、使おうとしたりしているとみた場合、米国はすぐに北朝鮮の体制を破壊するだろう。だから、軍事的に考えても、外交的に考えても北朝鮮が核を使う理由は見あたらない」

 「金一族は核を持つことで強い立場になれると考え、軍を強くすることに没頭しているが、それは彼らを守るのには役立たず、リスクを高めている。核開発は自殺行為なのだ」

 ――中国も、核兵器の近代化を図っているのでは。

 「米国だって常に近代化はしている。核兵器がより安全で信頼度が高くなるなら、むしろシステムの近代化はしてもらいたい」

 ――もし米中間に危機が起きたときは、中国が核兵器を使わないように説得できますか。

 「そんなことは起きないだろうから、考えたこともない。米国は中国と敵対関係にはない。中国が豊かになるにつれ、いつか米国の敵になるだろうと考えている人は多いが、40年前から中国に行っている私は、そうはみていない。中国は多くの人を貧困から脱却させ、世界第2位の経済大国になった。中国は米国の敵にならなかったことで成功してきた。それが、なぜいきなり米国の敵になるのだろうか」

 「中国はもう貧しくはない。彼らは、世界でもっと影響力を高めたいと思うだろう。ただ、その影響力は主に経済力から生じるものだ。米国と中国との間で、核兵器であれ通常兵器であれ、紛争が起きると真剣に考えたことはない」

    ■     ■

 ――核抑止という概念は国際政治の中に存在しています。核兵器は軍事的に不必要とのことですが、どのように状況を変えていくのですか。

 「状況はすでに変わっている。私が統合参謀本部議長に就任したころ、米国は大量の核兵器を保有していた。我々は、大幅に保有量を削減した。潜水艦搭載の弾道ミサイルを除いて海軍から核を撤収し、陸軍からも撤収。空軍の戦術核はいくらか残しているが(大幅に減らした)」

 「北朝鮮やイランに対しては、こんなメッセージを送りたい。『あなた方は時間とお金を無駄にしている。わずかな核兵器を持とうとして、国際社会から制裁を受け、国を荒廃させている。気は確かか?』と。最も強力な政治的武器は、核武装ではなく、経済成長だ」

 ――でも、彼らを説得できていませんね。  「我々は多くの国を説得してきた。たとえばリビアは説得された。(ブラジルやアルゼンチンのように)自ら納得して核開発をやめた国もある。彼らは『経済を立て直したほうがよい』と考えたのだ。そうした考えに至っていないのは、実質的にイランと北朝鮮だけだ」

 ――それは核が、政治的に有益だということを示しているのでは。

 「もちろんそうだ。しかし、核保有国が、危機に対応するための備えとして持つ抑止力としては、ずっと少ない核兵器数で十分なのだ。核を減らすことは私が国務長官の時も、オバマ大統領が新戦略兵器削減条約(新START)でも、実施したことであり、さらなる削減に向け、ロシアと再び交渉しようとしている。ただ、私は、この10年ほど、他国と交渉せずとも、米国は核兵器を減らせると言い続けてきた」

 「北朝鮮やイランはクレージーなので核兵器を使うと言う人たちがいる。私は、北朝鮮のシステムはクレージーではあるものの、システムの中では賢明であり、自殺行為はしないと思う。イランも同様だ」

 「インドとパキスタンの間で(2002年に)危機が起きた際、パキスタンのムシャラフ大統領に電話して、こう言った。『あなたも私も核など使えないことはわかっているはずだ。1945年8月の後、初めて核兵器を使う国やリーダーになるつもりなのか。もう一度、広島、長崎の写真を見てはどうか。あんなことをしたいのか、考えたりもするのか』と。もちろん、パキスタン大統領の答えは『ノー』だった。インドも同様な反応だった。彼らは冷静になり、危機は去った」

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