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紙面から from Asahi Shimbun

【2013年の夏】
(核といのちを考える) 非人道性、広がる非難 国際平和シンポ「核兵器廃絶への道」 (2013年8月6日 朝刊)

写真 パトリシア・ルイスさん=いずれも高橋一徳撮影

 〈基調講演〉

 ■核抑止論、過大評価されてないか 英国王立国際問題研究所・安全保障研究部長、パトリシア・ルイスさん
 核兵器をめぐっては冷戦後、新たな取り組みが進んでいる。1995年、各国の要人や識者が参加したキャンベラ委員会は、冷戦体制からの脱却と核軍縮へ向かうステップを提案した。

 99年の東京フォーラム報告書は、国際情勢の変化で高まる核の危険にどう対応すべきかを提言した。米国のオバマ大統領は2009年のプラハ演説で、核兵器の非人道的側面を説いた。

 核兵器に正当性はあるのか。現在、5カ国だけが合法的に保有している。だが、その使用はタブーで、5カ国以外は保有も禁じられている。

 核兵器は、第2次世界大戦を終わらせ、冷戦時代の平和を保ったとし、究極の安全保障と考えられてきた。だが、この「核抑止論」は十分に検証されてきただろうか。過大評価されてはいないか。

 核兵器は大量に人間を殺すための兵器で、近代化された軍にはふさわしくない。最新兵器のように標的を正確に絞ることはできない。生物化学兵器や対人地雷、クラスター爆弾は禁止されたが、なぜ核兵器は禁止されないのか。

 核は戦争を防ぐ魔法の装置ではない。サイバー攻撃やテロ、気候変動は、核兵器では解決できない。市民社会を巻き込んだ廃絶への取り組みが必要だ。

 すべての核保有国が最初から交渉に加わらなくても、あきらめる必要はない。最後に宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士の言葉を紹介したい。知識における最大の敵は無知ではなく、知っているという思い込みだ――。

     *

 国連軍縮研究所長、米国モントレー国際研究所核不拡散センター副所長を歴任。報告「核兵器の非正当化」をとりまとめた。56歳。

 ■進まない核軍縮、いらだち
 ルイスさんの講演の後、広島市立大広島平和研究所の水本(みずもと)和実副所長が質問した。やりとりは次の通り。

 <水本> なぜ、いま核兵器の非人道性を訴える動きが高まっているのか。

 <ルイス> 核軍縮が進まないことへの、いらだちや挫折感がある。より社会の関心を深めるため、ヒロシマやナガサキのメッセージを伝え、核兵器がもたらす破滅的な影響を考え直そうとしている。

 <水本> 核兵器の使用は規制か禁止か。

 <ルイス> 法律や条約でまず禁止し、そこから廃絶へ向かうべきだ。残酷な兵器はすでに禁止されている。

 <水本> 原発は。

 <ルイス> 核兵器の問題と混同すると出口が見えなくなる。ただ、フクシマやチェルノブイリで分かったのは、一般市民はすべての情報を与えられているわけではないということだ。

 〈ゲストスピーチ〉
 ■強さと美しさ、祖母に教わった プリマバレリーナ・森下洋子さん
 私は1948年、広島市で生まれた。祖母も母も被爆している。幼い頃は体が弱く、何か運動したほうがいいと言われ、3歳でバレエを始めた。東京でのレッスン費用をつくるため、母が地元でステーキハウスを始めた。祖母が同居し、私と妹の面倒を見てくれた。

 祖母は爆心地近くで被爆し、左半身や顔にひどいやけどを負った。枕元でお経をあげられているときに意識が戻ったそうです。親指以外がくっついた手を見せて「この手で洗濯ができる」などと、明るく笑い飛ばしていた。愚痴を一度も聞いたことがない。苦しみを心にしまって、前を向いていたのだと思う。祖母が戦争の醜さと、人間の美しさ、強さを教えてくれた。

 原爆は絶対にあってはならない。次の世代に事実を知らせていくことが大きな責任。私は平和と美の天使でありたい。平和を祈りながら踊り続けたい。

     *

 もりした・ようこ 被爆2世で広島市名誉市民。松山バレエ団理事長・団長。国際的に活躍し、97年に文化功労者に。64歳。

 ■80カ国が共同声明賛同 被爆国・日本、署名せず
 1970年に発効し、190カ国が締約している核不拡散条約(NPT)は、核兵器保有国を米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国以外に広げないことを目的としている。

 だが、インド、イスラエル、パキスタンはNPTに加わらず、北朝鮮は2003年に脱退し、05年に核保有も宣言した。締約国のイランは「平和利用」として核開発をしている疑惑がある。

 一方、国際社会では近年、核兵器の「非人道性」を訴える動きが広がっている。15年のNPT再検討会議に向けた今年4月の準備委員会では、南アフリカなどが「核兵器の人道的影響に関する共同声明」を発表。「爆発による即死や破壊のみならず、環境を破壊し、次世代から健康や資源を奪う」と強い懸念を示した。

 80カ国が賛同したが、被爆国の日本は署名しなかった。声明の「いかなる状況でも核兵器が二度と使われないことが人類存続の利益」という文言が、米国の「核の傘」に頼る安全保障政策と矛盾するため、という。核保有国や北大西洋条約機構(NATO)加盟国の大半も署名していない。

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