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紙面から from Asahi Shimbun

【2016年】
(核といのちを考える)「ゲン」世界に伝え続け 国内外の翻訳者ら、広島で集い (2016年2月18日 朝刊)

写真 様々な言語に翻訳された「はだしのゲン」

写真 様々な言語に翻訳された「はだしのゲン」を前に語る浅妻南海江さん(右)と西多喜代子さん=金沢市

写真 エジプトで出版されたアラビア語版の第1巻を手にするマーヒル・エルシリビーニーさん=東広島市

原爆のむごさと平和の大切さが描かれ、国内外で広く読まれてきた漫画「はだしのゲン」。その翻訳を手がけてきた人たちが18日、広島市に集まる。地球上から核兵器がなくならないまま迎える被爆71年。様々な言語に訳したきっかけや苦労を語りあい、非核・非戦への思いを伝えていく気持ちを新たにする。(中野晃)

 集うのはアラビア語、英語、シンハラ語(スリランカ)、朝鮮語、中国語、ベトナム語、ロシア語に訳した国内外の十数人。「はだしのゲン」を描いた漫画家の故・中沢啓治さん(2012年に73歳で死去)の妻ミサヨさん(73)らもゲストとして加わる。

 ロシア語版と英語版を翻訳・出版し、その他の翻訳活動をサポートしてきたグループ「プロジェクト・ゲン」が昨年で活動開始から20年を迎えたことを記念して企画された。一般には公開されない。

 集いを企画した「プロジェクト・ゲン」は、代表の浅妻南海江(なみえ)さん(73)=金沢市=が1995年に立ち上げた。知り合いのロシア人と会話をする中で「被爆の実態が知られていない」と感じ、ロシア語への翻訳を決意。生前の中沢さんも「ゲンのためなら、自由にやってください」と後押ししてくれたという。6年ほどかけて全10巻のロシア語版を完成させた。

 浅妻さんの呼びかけに応じ、西多喜代子さん(64)=同=は英語版の翻訳グループのメンバーに。「『麦のように強くなれ』という父の言葉を背に力強く生きるゲンの姿」にひかれ、多い日は10時間かける翻訳作業が数年間続いた。外国の出版社探しに苦心したが、うちから出したいという依頼も届くようになった。

 集いの参加者たちが訳した言語のほかにも翻訳が進み、これまでにドイツ語やポーランド語、フランス語、タイ語など23言語で翻訳・出版された。さらに別の2言語の翻訳も進められているという。

 ■今こそ読んでほしい 中沢さんの妻・ミサヨさん  夫の「子どもたちに原爆のことを伝え、平和の大切さを知ってほしい」という気持ちを多くの翻訳者が共有してくれて「はだしのゲン」が世界に広がりました。本当にありがたい。核兵器を持ち続ける国の人々に、今こそゲンを読んでもらいたい。「核を使えば、どうなるのか」ということを伝えるため、ゲンにはまだまだ頑張ってもらいたい。

 ■平和の聖典、わかりやすい言葉で アラビア語に翻訳・カイロ大教授のマーヒルさん(56)

 参加予定のカイロ大学教授のマーヒル・エルシリビーニーさん(56)は昨年1月、アラビア語の第1巻をエジプトで出版した。昨年5月に来日し、広島大特任教授として講義を受け持ちながら翻訳を進める。

 「はだしのゲンは平和の聖典。せりふの意味を深く考え、子どもにわかりやすい言葉で訳しています」。広島大の施設で作業に没頭する日々が続く。

 中東では紛争やテロが絶えない。

 マーヒルさんには「いつか核が使われるのではないか」という懸念がある。だからこそ「ゲン」を通じ、アラビア語圏の子どもたちに伝えたいと思う。「核兵器とは何か。それは無差別に人を殺害し、生き残った人を70年たっても苦しめる、絶対使ってはいけない兵器なんです」と。