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紙面から from Asahi Shimbun

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核なき世界へ 被爆国から 2012(4)
 作家 田口ランディさん

写真

 ■未体験の壁 向き合う

 作家として広島、長崎と向き合うようになったのは2000年の夏。広島のテレビ局の依頼で、平和記念式に関わったことがきっかけです。高校の修学旅行以来で、資料館を見学し、ただただ「怖い」という思い出しか残っていません。

 再び訪れた広島は、ヒロシマと記号化され、平和記念式も鎮魂の場というよりも、儀式化されているようでした。マスコミの取材ぶりも含め、何とも言えない違和感を覚えました。

 原爆に向き合った小説を書きたいと思いましたが、すぐにはできなかった。被爆体験がないことを壁に感じました。被爆者から体験を聞いたり、歴史を学んだりして作品に仕上げた時には5年がたっていました。

 それが短編集「被爆のマリア」です。広島を訪れて語り部の話を聞き、気分を悪くした修学旅行生や、突然父親から結婚式に「原爆の火」をキャンドルサービスに使うよう提案され戸惑う娘など、被爆体験のない人たちが主人公です。  結局、「まだ関わることができない」というジレンマを描くことになりました。それでも、読んだ人に平和について考えてもらえればうれしい。

 原発のことを考え始めたのは、1999年の茨城県東海村のJCO臨界事故がきっかけでした。それまでは原爆のことは切り離して考えていたけれど、原子力の技術者と交流を持ち、歴史的経緯を調べるうちに二本の糸が縒(よ)り合うように一つになりました。

 高レベル放射性廃棄物が10万年以上も存在し続ける現実がある。永遠とも言える時間、宙づりのような状態で、じっと放射性廃棄物と付き合い続けなければなりません。人類は宿命を背負いました。原爆と原発。壁を感じつつも、向き合っていきます。(聞き手・倉富竜太)

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 たぐち・らんでぃ 59年、東京都生まれ。2000年、長編小説「コンセント」でデビュー。11年9月には、被爆国・日本がなぜ核の平和利用を容認したかを考える「ヒロシマ、ナガサキ、フクシマ―原子力を受け入れた日本」を出版した。