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紙面から from Asahi Shimbun

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核なき世界へ 被爆国から2013 その2(8)  
歌手・俳優 吉川晃司さん   (2013年6月9日掲載)

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 ■使命感じ もがき歌う

 父は広島で入市被爆しており、僕は被爆2世です。

 広島県府中町で育ち、幼い頃から両親や親戚に原爆の話を聴かされた。8月の平和記念式典にも毎年参列していたので、子供なりに核への嫌悪はありました。

 歌手になって平和関連のコンサートに誘われるようになりました。ただ、当時は「本当に平和のためなのか」と疑問も感じ、ほとんど参加しませんでした。

 意識が変わったのは、30代半ば。原発事故や核汚染を題材にした黒沢明さんの映画「夢」を見たり、忌野清志郎さんからチェルノブイリ原発の惨状の話を聞いたりしてからでしょうか。

 3年前、府中町の母校の子供たちから依頼され、反核の思いを込めた「あの夏を忘れない」という歌の制作に加わりました。改めて広島に生まれた者の使命を考えるようになりました。

 そして東日本大震災。被災地へ行き来していると、放射能禍の人災でもあると強く感じるし、政(まつりごと)には幻想を抱けないと思う。原発事故直後の「直ちに人体に影響はない」という発表もしかり。だれがどんな利害で動き、メディアがどんな立ち位置で伝えているか。自ら背景を知ろうとしないと、生き残れない時代になったと思う。

 原発問題の根底には、多くの差別や矛盾がある。立地、使用済み核燃料の行き先、働く人々……。事故は続いているのに、海外に原発を輸出する話まである。広島、長崎、そして福島の経験をした唯一無二の国が厚顔無恥では悲しい。

 僕たちはいずれ、数十年後には死んじゃう。このまま策を講じず、この星の未来を担う子供たちに負の遺産ばかりを押しつけてリタイアしたら、「恥知らずな世代」との汚名は逃れられない。それは嫌だ。

 せめて、もがかないと。エンターテイナーだからこそやれることがあるなら、やろう。そう自分の心が言うもんで、試行錯誤しつつ思いを込めて曲を作り、歌っています。(聞き手・後藤洋平)

  (おわり)

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 きっかわ・こうじ 1965年生まれ。歌手・俳優。84年、「モニカ」でデビュー。俳優としても活躍する。4月に新アルバム「SAMURAI ROCK」を発売し、コンサートツアー中。