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紙面から from Asahi Shimbun

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核なき世界へ 被爆国から2013(4)  
 歌人 俵万智さん   (2013年2月1日掲載)

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 ■歌よ、平和につながって

 東日本大震災の後、仙台にいた小学3年生の息子を連れ沖縄まで逃げました。以来、石垣島で2人暮らしを続けています。

 「東北を見捨てるの?」などとツイッターで非難され、落ち込みました。《子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え》。昨年の3月11日に出した短歌集に収めた歌です。母親として動き、その思いを紡いだつもりです。

 あの日がくるまで何も考えていなかった自分に気づきました。いったん核の事故が起きれば、故郷が奪われ、生まれてくる命にまで影響を及ぼす。原発ゼロへ、新たなエネルギーの開発に向け、生活レベルを落としても向かうべきです。

 沖縄の人は先祖をすごく敬う。いま自分がいるのは何百年前の先祖がいたからだと。だから、何百年先の子孫のことも考えられる。今の日本の政治家に最も欠けた発想ではないでしょうか。

 8月の6日、9日、15日。何度その日が巡って来ても、核兵器廃絶の訴えは現実に届かず、世界で紛争は絶えません。しかし、人間には想像力があります。戦争は、始めた人ではなく、一番弱い人、特に子どもたちを傷つけ、未来を奪う。小さい頃、母が読んでくれた、岩崎ちひろさんの絵本でそれを学びました。

 自分の子を戦地に送り出すことを思い浮かべてみてください。平和な時なら一番してはいけないことと教える殺人を、戦争では無理強いする。戦争や原爆を直接知らなくても、その悲惨さを自分のことと受け止めることができるはずです。

 私は短歌をつくる上で、当たり前の日常の中にささやかな幸せを発見していきたい。そこに幸せを感じられるのは土台に平和があるからこそ。歌が平和につながればと願っています。(聞き手・清水大輔)

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 たわら・まち 1962年、大阪府生まれ。歌人。早稲田大在学中に短歌を始め、87年に第1歌集「サラダ記念日」がミリオンセラーに。昨年3月11日、東日本大震災後に感じた思いをつづった「俵万智3・11短歌集 あれから」を発表した。