english

ここから本文エリア

紙面から from Asahi Shimbun

核なき世界へ 被爆国から2014  
作詞家 なかにし礼さん ・ 声楽家 佐藤しのぶさん   (2014年6月8日掲載)

写真

 ■忘れない 歌に誓う

 ■未来を危険にさらすのか

 「平和の歌をぜひ」という佐藤しのぶさんの決意に動かされました。旧満州の戦争体験を語り継ぐ使命感から「赤い月」を書いた私にも、核廃絶の歌を書いてみたいという思いがありました。世界で最初に広島が体験した被爆は、長崎が最後であってほしい――と。

 では、どう書くか。そんな時でした。オノ・ヨーコさんが「『リメンバー・ヒロシマ、ナガサキ』ね」と語る朝日新聞の記事に出会ったのは。いま、被爆国日本が世界に発信できる言葉はこれしかないと思いました。2009年のオバマ米大統領のプラハ演説で、世界は核廃絶に多少なりとも進むのではとの淡い希望もあった。このフレーズを軸に歌詞作りを進めました。

 「リメンバー」の曲が完成したのは11年2月。その直後の翌3月、東日本大震災と福島第一原発事故が起きました。「なぜ今、広島・長崎なの」と思われないか。そんな心配から、発表の無期延期を決めました。

 でも、時は流れ、人間の手に負えない核の姿があらわになりました。広島・長崎を1次とすれば、福島は2度目の被曝(ひばく)です。核そのものの存在に対して物言うべき時ではないか、と作品を世に出すことにしたのです。3・11があったがために、歌には核兵器廃絶だけでなく、脱原発のメッセージも宿りました。運命的なものを感じます。

 旧満州で国家による「棄民」を体験した私は、福島の事故対応にも同じものを予想できました。「原子力帝国」の著者ロベルト・ユンクは「核エネルギーを持ってはいけない。政治権力者にウソをつかせるから」と述べています。脱原発を決めたドイツのように、日本も方向転換すべきです。

 若い人たちに伝えたい。あなた方の未来はあなた方のものです。それを核で危険にさらすのでしょうか。

 (聞き手・副島英樹)

     *

 なかにし・れい 1938年、中国黒竜江省(旧満州)生まれ。ヒットメーカーの作詞家として活躍後、小説「長崎ぶらぶら節」で直木賞受賞。引き揚げ体験を描いた「赤い月」は映画化され、ロングセラーに。(山本和生撮影)

 ■平和の願い、いつか世界に 声楽家・佐藤しのぶさん

《核なき世界を目指して 手をつなぎ みんな歩きはじめよう》

 ずっと平和の歌に携わりたいと思っていました。それが、なかにし礼さんに作詞をお願いした「リメンバー」です。

 平和への思いが強くなったきっかけは、小学5年の時に家族旅行で行った広島の平和記念資料館。亡くなった子を抱く母の写真がありました。その母の目は絶望に染まっていました。今も忘れられません。

 18年前には、ベラルーシに行きました。原発事故が起きたチェルノブイリ(旧ソ連、現ウクライナ)の北側にある国です。

 被曝した子どもたちの療養所で歌った後、所長さんに聞きました。「歌より医療を充実させたほうが子どもを救えるのではないでしょうか」と。すると、こんな答えが返ってきました。「生の演奏は人間の精神に強く訴えかけてきます。子どもたちに生きる希望と力を与えるのです」

 私にも歌を通して果たすべき使命があるのかもしれない――。そんな気持ちが高まった瞬間でした。ところが、3年前。日本でも原発事故が起きてしまいました。核はひとたび過ちが起きれば、きれいな水や土、命を根こそぎ奪う。人間には到底扱いきれないものなんです。

 いま、日本は集団的自衛権を始めとしたさまざまな議論が起きています。戦争が近づいているようにも感じますが、私たちは戦争の悲惨さを十分に学んできたはずです。

 8月の長崎でのシンポジウムでは、戦争のない平和な未来を願って歌います。そしていつか、リメンバーの歌詞が世界中の言語に翻訳され、たくさんの人が歌ってくれるようになってほしい。

《過ちは繰り返さない 人間に英知と愛があるなら》

 (聞き手・佐藤達弥)

      *

 さとう・しのぶ 1958年、東京都生まれ。文化庁オペラ研修所を首席で卒業後、イタリア・ミラノに留学。「椿姫」の主役で注目を集め、87〜90年にはNHK紅白歌合戦にも出場した。(麻生健撮影)

 ■「リメンバー」(作詞・なかにし礼 作曲・鈴木キサブロー)

《この 地球を 宇宙から ながめたら
美しい 青い星だ
国境は 引かれていない
今も どこかで 戦争は つづいてる
悲しみと 山のような 屍(しかばね)が 折り重なって
戦争と 核兵器のない
平和の 実現を 願う 人は集まれ!
リメンバー ヒロシマ・ナガサキ
過ちは繰り返さない
リメンバー ヒロシマ・ナガサキ
人間に英知と愛があるなら
愛と平和 自由を 私たちにください
愛と平和 自由を 私たちにください
遠くとも 核なき世界を 目指して
手をつなぎ みんな歩きはじめよう
リメンバー ヒロシマ・ナガサキ
沈黙にさよならしよう
リメンバー ヒロシマ・ナガサキ
行動と勇気で生まれ変わろう
愛と平和 自由を 私たちにください》
 (JASRAC許諾)