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「天野彰のいい家いい家族」

「私たちが喪ったもの」家の価値とは

2007年07月01日

 早いもので今年もあっという間に半年が過ぎ去ってしまいました。このコラムでも「時を過ごす」「毎日を暮らす」などと消極的なことを言っているのではなく、毎日を積極的に“生きる”ことをお話ししてきました。またその住まいはそうでなければならいとも言ってきました。しかしどうやら時のスピードの方が速すぎて、時を過ごすどころか時に過ごされてしまっているのかも知れません。

写真オーソドックスな木の住まい。中はモダンキッチンS邸
写真親子同居で大家族!それぞれの時間が流れ調整するG邸
写真家づくりに欠かせない、おなじみ人生時計

 この7月1日というのはなぜか交通・通信に関するきっかっけの多い日のようで、とりわけスピードアップに関する記録が多いのです。もうすぐ120年になろうとする東海道線が全線開通したのが1889年の7月1日で、新橋―神戸間が20時間ほどだったと言います。その後の1965年の同日、名神高速道路が全線開通し、旧電電公社のポケットベルが1968年に営業開始。同年郵便番号制度が開始され、手紙の着くのが早く確実となり、1992年には山形新幹線開業と続くのです。

 そしてまた今年の7月1日からは、のぞみのN700型新車両が東京―博多間を4時間50分にスピードアップすると言います。今までの700系のぞみでは5時間がやっとでしたが、気が付けば新横浜―京都など2時間を切り、名古屋は1時間18分もあります。なんと名古屋は首都圏からの通勤圏内となりそうなのです。

 東海道線開業120年も満たない間に新橋―神戸20時間が、今は8倍の品川―新神戸間2時間30分ほど。このスピードアップはますます際限を知らないのです。でも、静岡や浜松などの途中駅でひかりやこだまを待っている際、この轟音(ごうおん)とともに疾走するのぞみを見るとなぜか恐ろしく胸が苦しくなるのは、私が年を取ったせいなのか、あるいはこうした途中駅の都市がますます不便となり、遠のいていくことを憂えるせいなのでしょうか。

 こうした都市間の時間差や地方と都市の交通ギャップに加え、ITにどんどん加速される日常のあらゆる時間の早さや、企業の栄衰の早さは、時に恐怖さえ覚えるのです。特に住宅や病院、さらには生産施設などの設計のお手伝いをしていると、人として、あるいは心のなにか重大なものを喪(うしな)っていくような気がしてならないのです。確かに言葉やアイテムとして、「安全」や「安らぎ」、さらには「癒やし」「環境」などと言いながら、その裏側の見えないところではとんでもないことが起こっているような気もするのです。それが最近の衣・食・住で起こるあらゆる事件が物語っていると思えてなりません。

 家づくりではこうした懸念が強く感じられ、私自身に依頼された設計監理の中では時に建主に煙たく思われたり、口論をしたりしてでもわかってもらおうと頑張ります。その中身はまさに合理と不合理、経済と不経済、さらには確実と不確実と言えるのかも知れません。「広い子ども部屋と夫婦二つの寝室」の要求どおりにすれば楽でいいのに、「狭い子ども部屋と広いリビング、さらには真ん中をふすまで柔軟に仕切る“夫・婦寝室”」、あちこちから光と風が入る「窓の多い家」、木や漆喰(しっくい)あるいは珪藻土(けいそうど)などを多用した「地味なデザイン」、外断熱だ、ツーバイフォーだと新しい方式を出来るだけ採用しないオーソドックスな設計、車いすの生活のバリアフリーではなく、最後まで立って歩く「リハビリの家」。ついには設備に頼らない「自給自足の家」づくりを目指しているのです。

 特に同居に関しては自ら失敗事例も多く、今では「やりやすい娘同居こそきっちり分けた二世帯住宅! 息子、すなわち嫁と同居こそべったり一体の同居がいい」などとなるのです。この件に関しての詳細は次回に譲りますが、7月14日(土)朝9時から、NHK総合テレビの「家計診断」親子同居でもお話しします。どうぞ参考になさってください。

 ではなぜこうまでして私が頑張るのか、とよく聞かれます。確かにそのために失った仕事も少なくありません。デザインもつまらないものになりもします。確かに自分でも損な性格だなぁと思うこともあります。しかしこちらが経験を積めば積むほど、また多くのご夫婦に会えば会うほど、その家の未来や形が見えてくるのです。これはなかなか説明も難しく理解もされませんが、不思議にその中身がよく見えるのです。家の持ちや耐震などの建主の目に見えない構造や材料や手の入れようはもちろんのこと、肝心の夫婦やその家族の日常の暮らしの一つひとつ、さらにはその10年、20年の先の彼らの姿も見えてくるのです。

 そして何よりも、今の夫婦や親子が忘れて喪いかけている家との深いかかわりや、その価値などをあえて議題に出して考えていただきたいのです。その結果、和室はもとより床の間や仏壇などの祭壇、本物の土壁など、家そのものが昔ながらの軸組みの自然の木の住まいとなったりするのです。さらにもともと同居など考えてもいなかった親子が一緒に住むことになったり、しかも祖父母を含め4世代が一同に住む「四世同堂」の家になったりもするのです。

 そうです。今私たちが家づくりで喪ったものは「時間」なのです。それも急ぐ時間ではなく家族の一人ひとりにゆっくり流れる「時間」……、過去から今そして未来への「時間」を取り戻すことなのです。4世代、3世代の、世代の違う人が一緒に住んで、それぞれの「人間」すなわち家族の「時間」を感じられる「空間」そう、家にすることです。

 と言うことで、次回は「親子同居―べったり同居or分離の二世帯住宅か」です。

プロフィール

顔写真 天野彰(あまの・あきら)

 岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1-5-1/TEL03-3469-1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国に精力的に行っている。その実業務からTV・新聞・雑誌などで広く発言。元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任する。

 著書には、新刊『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数がある。

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